
vol.167 アーティスト 西川貴教 もうやらなくていいなんてことは何もない
西川貴教さんにとってのヒーローは“おじいちゃん”だという。
派出所勤務で剣道の有段者。浅黒くて大酒飲みで誰からも慕われていた。
「毎週末、近所に住む祖父の家に泊りに行くほど大好きでした」
小学校高学年の時、そのおじいちゃんが病気で亡くなった。
虚無感に襲われた西川少年の心を救ってくれたのがラジオから流れてきた洋楽。
そこから始まった音楽人生。今、仕事に没頭する西川さんに話を聞いた。
数々のミリオンセラーを生み出してきた西川さんのソロプロジェクト、T.M.Revolutionが、2016年にデビュー20周年を迎えた。それを記念して17年5月に、新著『おしゃべりな筋肉 ―心のワークアウト7メソッド―』を発売した。
「もともとネガティブ思考で凡人の僕は、何度も失敗し、苦悩や挫折も経験してきました。それでもこの世界で何とか20年のキャリアを積むことができた。その中でつかんだ、心の鍛え方をつづっています」
西川さんは本をまとめる作業で、記憶の奥底にあったものをひもときながら、さまざまな気づきを得たという。「例えば仕事で何かを判断する際、それまでの蓄積だけでは足りないものが出てくる。そこを補うため、新たな学びや経験が必要なんだなと。平たく言えば、幾つになっても、もうやらなくていいなんてことは何もない。日々精進が大切ということです」
本でも語っているが、決して順風満帆に歩んできたわけではない。10代でバンドを結成し、大阪を拠点に活動してメジャーデビューが決まり、20歳で上京。しかし思うような結果が出せず、西川さんは3年でそのバンドを脱退する。
「所属先がなくなり、東京では知り合いも少ない。さすがに途方に暮れましたが、とにかくひたすら曲を作ることから始めました」
それをしばらく続けるが、このまま見つけてもらうのを待っていてもダメだと思い、一念発起。わずかなツテを頼って、一緒にやってくれそうな人を紹介してほしいと恥をしのんで頭を下げ、デモテープを渡して曲を聴いてもらうということを2年近く繰り返した。
そうしてようやく「一人でやってみないか」と声を掛けられ、T.M.Revolutionとしてソロデビューすることになる。1996年のことだった。翌年の97年には「WHITE BREATH」が大ヒット、あっという間にその存在が世間に知られるようになった。
「うれしかったですが、食うや食わずの生活が長かったのでにわかには信じられず、しばらくはタクシーを使えなかった(笑)。でも、長く何をやってもうまくいかず、その期間に、もがき苦しんだお陰で、何事も自分で動かなきゃ始まらないし、変えられないという考え方が身に付きました」
ソロデビュー当初、恥もプライドも捨て、絶対売れてやるという気概を持って自分にできる最大限の努力をした。「そう思って頑張ることができたのも、ソロデビューまでの挫折経験があったからかもしれませんね」

にしかわ・たかのり/1970年滋賀県生まれ。96年にT.M.Revolutionの活動を開始。「WHITE BREATH」などヒット曲多数。滋賀ふるさと観光大使を務め、野外音楽イベント「イナズマロック フェス」を毎年主催。新著『おしゃべりな筋肉』(新潮社)が発売中。
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