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AIに奪われる仕事、奪われない仕事の「決定的な違い」とは。人工知能の研究者川村秀憲に聞く

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人工知能(AI)の技術進化は目覚ましく、その影響がビジネスシーンにも及びつつあります。20年先はおろか、5年先の未来すら見通すことは難しく、若手ビジネスパーソンのなかには期待と同時に不安を覚えている人も少なくないのではないでしょうか。

マイナビ転職が新入社員を対象に実施したアンケートでも、「今の勤め先が20年後も残っているとは思っていない」と回答した人が、実に半数に及びました。

自分の仕事や勤め先がいつまであるか分からないーー。そんな状況で、これからどんなスキルを身に付ければいいのでしょうか。

今回はAI研究の第一人者のコメントをもとに、AIが仕事やキャリアにもたらす変化を掘り下げます。

  • 取材はリモートで実施しました
川村秀憲さんプロフィール画像

監修者 
川村 秀憲(かわむら・ひでのり)

人工知能研究者、北海道大学大学院情報科学研究院教授、博士(工学)。1973年、北海道生まれ。2000年に北海道大学大学院工学研究科システム情報工学専攻博士後期課程を期間短縮修了。同研究院で調和系工学研究室を主宰し、2017年9月より「AI一茶くん」の開発をスタートさせる。ニューラルネットワーク、ディープラーニング、機械学習、ロボティクスなどを専門に研究し、ベンチャー企業との連携も積極的に進めている。著書に『10年後のハローワーク これからなくなる仕事、伸びる仕事、なくなっても残る人』(アスコム)、『ChatGPTの先に待っている世界』(dZERO)、『人工知能が俳句を詠む』(共著、オーム社)、『AI研究者と俳人 人はなぜ俳句を詠むのか』(共著、dZERO)、監訳書に『人工知能 グラフィックヒストリー』(ニュートンプレス)などがある。

この記事はMEETS CAREER by マイナビ転職で
2025年04月07日に掲載された記事の転載です

目次

    努力して能力を身に付けても「AIに勝てない」

    マイナビ転職が2023年の新入社員800名を対象に行ったアンケート調査(※1)で、およそ半数が「今の会社が20年先も残っているとは思っていない」と回答しました。

    グラフ1 グラフ1

    職種別の回答

    入社したばかりなのに、仕事の将来性に疑問を抱いているーー。こんな新入社員が増えた背景の一つに、AIの目覚ましい進化があることは間違いなさそうです。特に昨今は、ChatGPTに代表される生成AIがビジネスシーンにも浸透しつつあり、いわゆる「AIに仕事が奪われる」論争も過熱しています。

    そもそも、生成AIは現在どれくらいのレベルにあるのでしょうか。人工知能を研究する川村さんは、直近3年間におけるChatGPTの進化を以下のように振り返ります。

    「今から3年前、登場したばかりの頃のChatGPTは、とんちんかんな答えを数多く返していたんです。例えば『(楽器の)ラッパって何ですか?』と聞くと、『4本足の動物です』みたいに(笑)。

    ただ、そこからの成長スピードがすごかった。2024年に大学の共通テストを解かせたところ、各教科の平均正答率が6割を超え、2025年に再び共通テストを解かせたら、今度は正答率が9割に達したそうです(※2)。点数の水準だけで言えば、もはや東大を受験できるレベルです。そして、ここまで到達するのに、たった3年しか要していないんです。

    この結果は、特に現在20〜30歳くらいの世代に強烈なインパクトを与えたのは間違いありません。なぜなら、彼らがこれまで踏んできた、一生懸命勉強して良い大学に入って、良い会社に入る、という努力の『価値』がAIによって損なわれる可能性があるからです。

    幼い世代やこれから生まれる子どもは、物心ついた時からAIが身近にある『AIネイティブ』ですから、AIの技術を前提に努力の方向性を調整できます。逆に、今40代以上の人も、アンケートの質問で設定されていた『20年後』というスパンで考えると、その頃現役を引退して『逃げ切れる』可能性が高い。

    しかし、今20〜30歳くらいの人はそうではありません。AIに頼らず、己の努力で受験戦争や就活を勝ち抜き、その能力を下地にビジネスの世界で戦っていこうとしている。でも、その能力ではもはやAIに勝てない。努力して身に付けた能力が、あっさりAIに代替されてしまう、という現実とこれから向き合わなければならなくなったのです。

    そうした感覚がアンケート結果にも反映されているのかもしれません」

    AIに置き換わっていくのは「誰がやっても同じアウトプットが求められる仕事」

    では、AIの技術進化によって、あらゆる仕事・業界はどのように変わっていくのでしょうか。

    「今後20年で起きることを予測してみましょう。まず、ChatGPTをはじめとするソフトウェアとしてのAIは、今後もどんどん性能を向上させていくでしょう。各種ニュースでも伝えられるように、人間の能力を超えるフェーズ(シンギュラリティ)がすでに始まっています。

    もう一つは、AIがロボット技術と結びつき、ヒューマノイドのような存在が登場するだろうということです。物理的な制約もあるので、ハードの進化はソフトに比べて多少遅れますが、それでも確実に人間と同じことがロボットにもできるようになっていくはずです。

    すでに車の世界では、テスラ車のように自動運転機能を搭載したもの(電気自動車)が登場しています。

    テスラは初の量産車である『モデルS』の販売を2012年に開始しましたが、当初は生産体制の確立に苦しんだこともあり、世界中のアナリストが『電気自動車が世界中に普及する日は遠い』と予想していました。では、それから10年と少し経った今はどうでしょうか。テスラの生産ボリューム(全モデル)は年間180万台(※3)にまで増え、日本の街中でテスラ車を見かけることも珍しくなくなりました。

    ドローンも同じです。誕生してからあっという間に高性能なものが量産されるようになり、世界中に普及していきました。テスラ車やドローンの普及スピード感を考えると、ヒューマノイドが量産される未来も20年あれば十分にありえると思います。

    とはいえ、すべての仕事がAIやヒューマノイドに置き換わるわけではありません。ポイントになるのは『誰がやっても同じ結果が求められるかどうか』です。

    人に任せてもAIに任せてもアウトプットが変わらないのであれば、単純にコストが低い方を選びますよね。人にかかるコストがAIの導入コストより低いうちは、人がその仕事をやることになるでしょう。でも、後者の方が安くなれば、その仕事はAIに置き換えられるのです。

    逆に、『この人にお願いしたい』と思われる仕事はAIに代替できないでしょう。例えば、単なるデザインの作成であればAIでも十分に可能ですが、『この人にデザインを頼みたい』とクライアントに思わせられるだけのスキルを持ったデザイナーの仕事はAIに代替されない、というように」

    AIには「責任を伴う意思決定」ができない

    AIにできない仕事はほかにもあります。その代表的なものが「意思決定」です。

    「現状、AIには意思決定ができません。何かしらの基準を伝えなければ、お昼に蕎麦を食べるか、ラーメンを食べるかということすら決められない。でも、こうした小規模なものから大規模なものまで、意思決定をする局面は仕事においても必ず訪れます。例えば製造業なら、おしゃれだけど機能がシンプルな製品を開発するのか、ダサいけれど高機能な製品を開発するのか、とか。そして、この意思決定に​​『唯一無二の正解』はありません。そんななかでも判断・決定できるのは人間だけです。

    意思決定ができないということは、裏を返すと『AIには責任が取れない』ということでもあります。

    もちろん、AIに基準を伝えれば、とりあえず決めてはくれると思いますよ。でも、その決定は責任を伴いません。責任の伴わない意思決定で、果たして組織や人は動くでしょうか」

    そのほか、AIに代替されない仕事は「ビジネス的にスケールしづらいこと」だといいます。

    「例えば、ロボットがファストフードを作れるようになったら、ファストフード店員の仕事の一部はロボットに置き換わるでしょう。ファストフード店は世界中に数え切れないくらいあって、莫大な開発費をかけてロボットを開発しても、ビジネスとして十分にペイできるから、近い将来こういう状況になる可能性が高いです。

    一方で三つ星レストランの料理を作るロボットを開発するのは、ファストフード用のロボットよりも大変でしょう。なぜなら、シェフの作る料理は画一性が少なく、より高度な調理技術を求められるからです。

    そして、予算をかけて開発したところで、導入する店はファストフード店よりも圧倒的に少ない。おそらく開発費も回収できないはずです。だから、三つ星レストランのシェフの仕事はAIに代替されないのです」

    AIに仕事を奪われないために“意思決定力”を磨こう

    「オリジナリティのある仕事」「意思決定」「ビジネス的にスケールしづらいこと」。AIに代替されない仕事の3つのポイントから浮かび上がってきたのは、「属人性」というキーワードです。

    「自分の仕事を振り返ってみてください。AIがやっても同じアウトプットが出る仕事なのか、それとも決まった答えのない問題について意思決定するような仕事なのか。自分でなくても成り立つ仕事なのか、それとも『君だからお願いしたい』『あなただから応援したい』と思ってもらえる仕事なのか。20年後を見据えるなら、そういった点を考えなければなりません」

    一方で、そんな属人性のある仕事を企業が嫌うことも理解しています。つまり、市場価値を高めるために属人性を身に付けたい社員と『誰もが同じアウトプットを出せる』状態にしたい企業とで、利益が相反することになるわけです。

    その状況で、一人ひとりのビジネスパーソンがやるべきは『意思決定』の能力を磨くことでしょうね。なぜなら、意思決定できる能力はAIに代えがたく、会社にとっても重要だからです。若手のうちは重要な仕事で意思決定できる場面は少ないかもしれません。でも、会議の場で、日々のコミュニケーションで『自分はこう思います』と明確な意思を示し、意思決定のトレーニングを積むことはできます。その積み重ねがオリジナリティの高い仕事を任せてもらえたり、社外でオリジナリティの高い副業に携われたりするきっかけをつくっていくはずです」

    AIの台頭で「将来、自分の仕事は残っているのか」と不安を覚えている若手ビジネスパーソンは、川村さんが言うようにまずは自分の仕事内容を振り返ってみましょう。誰がやっても同じアウトプットを出すことなのか、それとも自分にしかできない意思決定が含まれるのか。もし前者であるなら、20年後に備えてまずは意思決定力を磨いてみては。

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    【出典】
    マイナビ転職『2023年新入社員の意識調査』

    取材・文:はてな編集部・山田井ユウキ
    編集:はてな編集部
    制作:マイナビ転職

    1. マイナビ転職『2023年新入社員の意識調査』
    2. テストは、AIの導入コンサルティングなどを手がける株式会社LifePromptがOpenAI社のChatGPT o1モデルで実施し、2025年1月に発表した。2024年の正答率も同社実施のテストを参照した
    3. 2024年通期の生産台数は約177万台

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