
第一線で活躍するヒーローたちの「仕事」「挑戦」への思いをつづる
Vol.59俳優 大泉洋
必然だった人生初の挫折
Heroes File Vol.59
掲載日:2011/9/16

幼い頃から人を笑わせるのが好きだったと言う大泉洋さん。北海道の深夜テレビ番組「水曜どうでしょう」でブレイクし、連続ドラマ「救命病棟24時」への出演をきっかけに全国的人気者となった。居るだけで場をなごませる、天性の笑いのセンスを持つ彼が仕事をするうえで力を注いでいることなどを話してくれた。
Profile
おおいずみ・よう 1973年北海道生まれ。北海道の演劇ユニット「TEAM NACS」に所属。北海道発の深夜番組でブレークし、2005年に出演した全国ネットの連続ドラマをきっかけに映画、ドラマに多数出演。現在、主演映画「探偵はBARにいる」が公開中。9月29日からサンシャイン劇場にて「大泉ワンマンショー」も公演予定。
大学受験の失敗がすべての出会いの始まり
「男なら一度は憧れる探偵役だし、僕の地元の北海道が舞台。それだけでうれしかったですね。ただ、雪のススキノを走るのだけは大変でした。つるつるの雪道を全速力で走っちゃいけない。非常に危険な行為です(笑)」
軽妙な語り口に引き込まれ、何げない話にもつい笑ってしまう。映画『探偵はBARにいる』で大泉洋さんはコミカルな持ち味を生かしつつ、時折哀愁の漂う探偵を演じている。
ここ数年、映画やドラマでの活躍が目立つ大泉さんだが、その出発点は何と大学受験の失敗だったそうだ。
「高望みして二浪までしたのに結局志望校に入れなかった。人生初の挫折でした。だから、入学当時は合コンも遊びもしたくないという、完全にやる気のない状態でしたね」
それでも「このまま腐った気持ちでいるのはまずい」と重い腰を上げ、門をたたいたのが演劇研究会だった。「思いがけず面白い連中がたくさん集まっていて、演劇よりもまず彼らに惹(ひ)かれました。志望校に落ちてこの大学へ入ったのも彼らと出会うための必然だったんでしょうね、きっと」
ここで知り合った仲間5人と共に劇団ユニット「TEAM NACS」を結成。「知らない人たちを笑わせるのが楽しくて」どんどん芝居にのめり込んでいった。そんな彼の舞台を見た人の紹介で北海道の深夜テレビ番組に「元気くん」というキャラクターで出演。更にそれがきっかけでバラエティー番組「水曜どうでしょう」へのレギュラー出演が決まった。
就職難ならと、まずは目の前の仕事を選択

この番組が大ヒットし、大泉さんの人気は爆発。北海道で彼を知らない人はいないというほどの有名タレントに。
「ありがたいことにトントン拍子でした。NACSの舞台もバラエティー番組も、僕が一番好きな『人を笑わせる』ということをすればいいわけで、それはもう楽しかったです」
大学卒業後も役者、タレントを続けたのは、世の中が不況で就職難だったのが大きいという。「就職先が見つからない同級生もたくさんいたので、だったら僕は、とりあえず目の前にあるテレビの仕事や劇団の活動をしっかりやっていこうと。もともとものぐさで、将来を考えたりするのが面倒というのもあったのですが(笑)」
その気負いのなさが支持され、北海道での人気はますます上昇。レギュラー番組もどんどん増えていった。しかしそんな大泉さんに大きな転機が訪れる。「水曜どうでしょう」がいったん終了することになったのだ。まさに青天のへきれき。話を聞かされた夜、大泉さんは一睡もできなかった。
悩んだ末、東京へ転機となったドラマ出演
北海道の深夜テレビ番組「水曜どうでしょう」は大泉洋さんの仕事の柱だった。「基本的に北海道で仕事ができればよかったので、当時の状況に本当に満足していたんです。ところがその番組がなくなると知った時は、さすがにこのまま仕事を続けていけるのかと不安を感じました」
もしかしたら現状に満足していてはいけないんじゃないか。頑張ったり努力しないと仕事はあっという間になくなってしまうのではないか――。そう感じた大泉さんは事務所と話し合い、芝居の仕事をきちんとやっていこうと決める。
「とはいえ、北海道では芝居の仕事が少ないので東京へ進出するしかない。ただ、ここでもまた悩みました。東京では無名の僕がいったいどうやって仕事をしていけばいいのかと。いきなり大きな役は無理。だからといってエキストラでドラマ出演では、僕をよく知る北海道のファンはがっかりするでしょう。『大泉も、やっぱり東京ではこうか』って」
そんな矢先に舞い込んだのが全国ネットの連続ドラマ「救命病棟24時」への出演話。シリーズ化されている人気番組だっただけに、これを機に大泉さんの知名度は一気に全国区となった。
「本当にラッキーでした。僕は自分に自信がないし、実力を過信していない。でも人や仕事と出会う力はあると思う。二浪の末、希望の大学へ行けなかった時も、それによって仲間に出会えたわけだし。こんな風に絶好のタイミングでいい仕事に巡り合えているのも、事務所のスタッフのお陰なんです」
どんなボケも拾って現場を笑いに変えたい

いい出会いをもたらしているのは運だけでなく、自身が人間関係をとても大切にしていることが大きいだろう。
「一度出会って深く関わった人とは別れたくないんですよね。その人とのつながりをずっと大事にしたいから」
また、誰とどこにいても、その場を楽しくしたいという気持ちも人一倍強い。
「撮影中も、下手したら自分の演技や体力を犠牲にしてでも、現場を楽しい雰囲気にしようとします。それと、誰のどんな小さなボケでも僕は非常に丁寧にツッコミます(笑)。例え面白くないボケでも僕のツッコミで笑いに変えることができたら、みんなが楽しい気分になれるでしょう」
臆病だから、あまり新しいことをしたいとは思わない。今まで通り北海道と東京で仕事ができればそれで十分という。さりげない優しさとユーモア、そして温かなサービス精神と謙虚さがある。だから彼の周りにはいつも人といい仕事が集まり、にぎやかなのだ。
ヒーローへの3つの質問

現在の仕事についていなければ、どんな仕事についていたでしょうか?
教師でしょうね。両親が教師で一番身近な職業でしたし、教員免許も取得しているので。
人生に影響を与えた本は何ですか?
三谷幸喜さんのエッセイ「オンリー・ミー 私だけを」。エッセイってこんなにおもしろいもので、こういうふうに書くんだなというのを教えてもらった1冊です。
あなたの「勝負●●」は何ですか?
特にないのですが、家族を持ってから毎日神棚に手を合わせるようになりました。自分ひとりじゃないんだという気持ちになったからだと思います。
Infomation
大泉洋さん主演映画
「探偵はBARにいる」が公開中!
舞台は札幌の歓楽街ススキノ。行きつけのBARで酒を飲む探偵のもとに、コンドウキョウコと名乗る女性から電話が入る。簡単な依頼だと思って引き受けるや、探偵は命を狙われ、知らず知らずのうちに不可解な事件に巻き込まれていく――。
札幌在住のミステリー作家・東直己さんの人気小説がついに映画化。主人公の探偵を演じる大泉洋さんとその相棒役の松田龍平さんのコンビが絶妙。今までになくシリアスで、アクションにも初挑戦した大泉さんに注目!
キャスト/大泉洋、松田龍平、小雪、西田敏行他
監督/橋本一
脚本/古沢良太、須藤泰司
原作/東直己「ススキノ探偵シリーズ『バーにかかってきた電話』」(ハヤカワ文庫)
公式HP/http://www.tantei-bar.com