第一線で活躍するヒーローたちの「仕事」「挑戦」への思いをつづる
Vol.12女優 小島聖
経験が力になる
Heroes File Vol.12
掲載日:2009/10/23
すらりと伸びた長い手足と、漆黒の瞳が印象的。その確かな演技力と存在感で、映画、舞台、ドラマと幅広く活躍中の小島聖さん。「舞台が一番自分に合っている気がする」という小島さんに、女優という仕事への思い、悩んだ時のリフレッシュ方法などさまざまな話を聞いた。
Profile
こじま・ひじり 東京都生まれ。89年NHK大河ドラマ「春日局」で女優デビュー。最近の主な出演作はドラマ「ラブシャッフル」(TBS)、「人間動物園」(WOWOW)、舞台「パンク侍、斬られて候」など。多彩な役をこなす演技力と存在感で映画、舞台、ドラマなど幅広く活躍中。11月4日(水)から13日(金)まで、宮本輝原作の舞台「錦繍 KINSHU」(天王洲 銀河劇場)に出演。地方公演もある。
稽古(けいこ)を積み重ねながら役に入っていくのが楽しい
小島聖さんは今秋、舞台「錦繍 KINSHU」に挑む。原作者は宮本輝さん。かつて夫婦だった2人が10年ぶりに再会し、往復書簡を通じて「生」と「死」を見つめる物語だ。小島さんはかつての妻、亜紀を演じる。
「亜紀は器の大きな女性。いろいろあったのに決して悲観的ではなく、前に進もうとする姿がステキ。反面、元夫が一緒に暮らす女性にちょっと嫉妬(しっと)したりする愛らしさもあって、好きですね」
劇団ひまわりの出身。子役時代を経て、NHK大河ドラマ「春日局」で女優デビュー。高校卒業時、「あこがれていたファッション業界への進路も考えたのですが、両方選んで、どちらも中途半端になってしまうのが嫌だったので」と女優の道を選んだ。
「女優の仕事をおもしろいと感じるようになったのは、20歳を過ぎて舞台に出演し始めてから。共演者たちと2カ月近くずっと一緒に稽古し、終わると飲みに行って朝まで語り明かす、という体育会系のノリがすごく新鮮で楽しくてたまらなかった」
もともと誰とでもすぐに打ち解けられるタイプではない。役が体に入るのにも時間がかかるほうだ。だから、稽古の期間が1~2カ月ほど設けられる舞台が、自分のリズムには合っているという。「ものすごく緊張する性格なので、私にとって稽古は自分の中から余計な緊張を取り除き、共演の方々との関係を築くための時間でもあるんです」
その上で役作りも徹底的に行う。「やり過ぎなぐらい試行錯誤を繰り返します。そうやって役を深めていくのが好きなんです」
小島さんは、女優という仕事に対して迷いがないように見える。しかし決してそんなことはないという。「悩み、苦しんだことももちろんありました」
20代前半は、さんざん悩みもがいていた
特に20代前半の頃は、同世代の女優たちが活躍しているのを見て「なぜ私にはあの役がこないのか」と嫉妬したり、年上の共演者の演技を見て「どうして私はうまく演じられないんだろう」と悩んだり。自分が望むように物事が進んでいかないことに、もどかしさ、苛(いら)立ちを感じていた。
「仕事をしている時はまだいいのですが、次に何をやるか決まっていない時は気持ちばかりが焦って。今思うと本当に空回りしていました。でも、あの頃は空回りしていることにすら気づいていなかった」
そんな小島さんを変えてくれたのは、やはり舞台だった。一つの舞台が終わって次の舞台、と経験を重ねていくうちに「ああ、私はこんなにも演じるのが好きなんだ」と心の底から思えるようになっていった。
「舞台に立つと、私、生きてるなあっていう高揚感があって、あの瞬間もたまらない。不思議なもので、自分の好きなものが明確になればなるほど、他人への嫉妬、焦りといったものが薄らいでいったんです」
まだまだ女優として自信などないが、経験が自身の力になっていると感じている。
「舞台に出演する度に毎回小さな収穫がある。ちゃんと成長できているかどうかは分からないけれど、私の引き出しに何かしら蓄積されていって、それが次につながっているんだろうなって思います」
ネパールのトレッキングで大自然を満喫
ここ3年、続けてネパールを旅している。2回目からヒマラヤ山脈のトレッキングを始め、今年は2週間かけて約5400メートルのゴーギョ・ピークに挑戦した。かなりハードだったのではと思いきや、「全然平気でした(笑い)」と小島さん。「とにかく自然はすごい。その一言に尽きる。そこで生活する人々も本当にステキ。温厚で優しくて」
昨年はペルーへも。チチカカ湖やマラスの塩田などを旅した。
「大自然の中に居るだけで内面が満たされていく。エネルギーをチャージさせてもらっている感じ。それが心地よくて時々ふと旅したくなるんです」
小島さんはマクロビオティックやアロマセラピーにも精通し、ふだんの生活においても自然と寄り添い、体の中から気持ちよく暮らすことを心掛けている。「心と体ってつながっているので、どちらかに疲れがたまったなと思ったら、旅に出たり、ジョギングしたり、体に優しいものを食べたり。そんな単純なことでリフレッシュしています」
女優だからといって芝居のために日々を生きているわけではない。とはいえ普段の生活で何を感じ、どう過ごしているかは、意識しなくてもおのずと芝居に出てしまうのも事実。女優とはそういう仕事だという。
「だからこそ、稽古や舞台本番の時だけでなく、日常生活も大事にしたい。生活と仕事、両方が今の自分を形成してくれているわけですからね」
小島さんは特に食事に気を配り始めてから、心がニュートラルになり、感情の振り幅も小さくなったと語る。「気長に待つことができるようになりましたね(笑い)。昔はいつも気持ちが急(せ)いていたから、次のことがすぐに始まらないと嫌だった。今は、物事はうまくいく時はすっと進んでいくんだからと達観して考えられるようになりました」
やりたいことは声に出して発信することで実現
特に目標はない。「今、公私ともにすごくいい状態なので、このまま楽しく、健康に過ごしていければ」。とはいえ、まったく欲がないわけでもない。「次の舞台ではこんなことがやりたい、といった思いは常にありますね。この、『次はこうしよう』っていう気持ちが私の原動力だと思います」
小島さんは、自分がやりたいと思うことは周りに発信することが大切だと語る。「今度はこんな芝居がしたいとか、この山に登ってみたいとか、とにかく自分のやりたいことを口に出して発信してみる。すると、それに近い人が寄ってきてくれて実現することが多いんです」
それと「続けることも大事」だという。
「一生懸命に何かをやり続けていると、必ず誰かの目にとまって次につながっていくものだと思う」。実際、現在取り組んでいる舞台「錦繍 KINSHU」への出演も、昨年出演した舞台「かもめ」での人との出会いによって実現したそうだ。
時々無邪気に笑いながらも、凛(りん)としたまなざしで真剣に思いを語ってくれた小島さん。自分自身に対しても他者に対しても自然体で素直な彼女の言葉は、シンプルでありながら力強さが備わっている。
ヒーローへの3つの質問
現在の仕事についていなければ、どんな仕事についていたでしょうか?
ファッション関係。スタイリストになりたかったんですよね。あるいは料理が好きなので、料理研究家かな。
人生に影響を与えた本は何ですか?
気持ちが空回りし、右往左往していた時によく読んだのが「バシャール」。スピリチュアル世界の本です。今でも時々思い出すのは「日々ワクワクしなさい」という言葉です。
あなたの「勝負●●」は何ですか?
「勝負深呼吸」。深く呼吸するとリラックスします。深く息を吸い、からだの中心にある丹田まで呼吸が通ると、今日は調子がいいとか、体調のバロメータにもしています。
Infomation
小島聖さん出演の舞台「錦繍 KINSHU」
天王洲 銀河劇場にて2009年11月4日(水)~13日(金)
宮本輝氏の傑作ベストセラー小説「錦繍」を舞台化した感動の大作。演出は「レ・ミゼラブル」「ベガーズ・オペラ」などの演出で知られる、英国人演出家のジョン・ケアード氏。初演では、西欧の演出家ならではの視点で宮本輝氏の世界観を余すところなく描き、深い感動を呼び起こした彼の演出が今回も冴える。また、モーツアルトの音楽とともに、藤原道山氏の臨場感溢れる尺八の生演奏も物語に彩りを添える。2007年夏の初演で好評を博した名作が、再演によってさらにどのように熟成されていくのか期待される。
原作:宮本輝著「錦繍」(新潮文庫刊)
脚本・演出:ジョン・ケアード
共同脚本・演出助手:藤井清美
音楽・尺八演奏:藤原道山
出演:鹿賀丈史、小島聖、中村ゆり、石母田史朗、西牟田恵、高橋長英ほか
【公演概要】
東京公演/2009年11月4日(水)~13日(金)
会場/天王洲 銀河劇場
問い合わせ/ホリプロチケットセンター(03-3490-4949)または、ホリプロオンラインチケット(http://hpot.jp(パソコン&携帯))
そのほか、茨城、北海道、新潟、石川、大阪で地方公演あり。
※詳細は公式サイト(http://kinsyu.syncl.jp/)をご覧ください。