第一線で活躍するヒーローたちの「仕事」「挑戦」への思いをつづる
Vol.27シンガー・ソングライター 川嶋あい
路上ライブで運命を開く
Heroes File Vol.27
掲載日:2010/5/28
まっすぐに心に届く歌詞が魅力の川嶋あいさん。なぜ彼女の歌には説得力があり、聴くと元気になれるのか?その理由は地道な努力と、傷つくことを恐れずに行動し続けた強い意志にあった。
Profile
かわしま・あい 1986年生まれ、福岡県出身。2003年音楽ユニット「I WiSH」として「明日への扉」でデビュー、同曲はオリコンシングルチャート2週連続1位を獲得。05年からソロとしての活動を本格的にスタート。5月26日にニューアルバム「24/24」をリリース。6月2日からデビュー7周年記念全国ツアーを開始。
これまで乗り越えてきた数多くの試練
透き通った力強い声で歌う川嶋あいさん。彼女の歌は、聴く人の心に言葉がしっかりと入ってくる。最新アルバム「24/24」は、24歳になる川嶋さんが等身大の自分自身をテーマにした。「24歳の一人の女性として自分が見ている景色を曲にしたかった。四捨五入して30歳になる25歳からが大人だと思うんです。だとしたら24歳は大人になる前の最後の年。特別な感情がありました」
川嶋さんの24年間は過酷なものだった。産みの母が病死して児童施設で3歳まで育ち、子供がいなかった夫婦に引き取られる。だが、小学校5年生で父親が病死。その後母子家庭で育ち、彼女が歌手になることを夢見ていた母親は、彼女が17歳でデビューする目前に亡くなった。
音楽との縁は3歳の頃、「人見知りを直すために」と母親が彼女を音楽教室に通わせたことだった。最初は母親の喜ぶ姿を見るのがうれしくて続けていたが、自らも音楽に道を見いだし、中学生の時に演歌歌手としてデビュー。しかし全く売れず、今度は一からJ-POPを始めようと本格的に曲作りを開始する。そして高校入学と同時に単身上京し、東京の芸能事務所に所属した。しかしすぐに事務所を解雇される。
八方ふさがりの運命を切り開いた路上ライブ
「あの時は絶望感でいっぱいでした。芸能人の多い高校だったので、忙しく活動する同級生たちを見ながら私は何をすればいいのかも分からない。母を始め地元の期待も十分に分かっていたので、実家に帰る選択肢もない。そんな時、路上ライブをしている人を見て、これならできるかもと思って」最初は足を止めてくれる人もおらず、帰りたくて仕方がなかった。だが、すぐに母親と「路上ライブ千回」という約束をする。酔っ払いや誘惑の多い都会の路上。寒さで手がかじかんだり警察に注意されたり、若い女性の路上ライブがどれほど難しかったことか。
「幸運なことに数回目で、現在所属するレコード会社のスタッフとなる学生たちと出会ったのです。彼らも素人でしたが協力を申し出てくれて。当時はまさかここまでのきずなになるとは思いませんでしたが、熱心にいろいろと考えてくれ、東京に来て初めて信じられる人たちに出会ったような気がしました。路上での私は震える子羊のように見えたそうです(笑)」
雨の日も風の日も路上で歌い続け、聴衆が増えた頃、テレビ番組「あいのり」のテーマソングを依頼される。しかしその曲がテレビで流れる前に、誰よりも熱心に応援してくれていた母親が急死してしまう。
決めたことはやり遂げる強い意志で、目標を達成
一番の心の支えだった母親を失った川嶋さんだが、母親と約束した「路上ライブ千回」を目指し続けた。また、テレビ番組「あいのり」での主題歌デビューも果たした。さらに渋谷公会堂(現渋谷C.C.Lemonホール)でのライブデビュー、CD手売り5千枚など決めた目標を次々実現、路上ライブも3年かけて千回を達成し、全国ツアーへと活動は拡大した。
「今考えても母が亡くなった時が一番つらく、回復には時間がかかりました。でもその時の大きな悲しみと引き換えに、後で奇跡のような喜びがやってきた気がします。路上ライブ千回目は達成感はもちろん大きかったのですが、3年間ほぼ毎日やり続けたことがなくなり心に大きな穴が空いたような寂しさも感じました」
でも、路上ライブで得たものはとても多い。「路上で歌っていると、どんな曲だと足を止めてくれる人が多いかなど、メロディーや詞の持つ力を実感でき、勉強になりました。何より夢に向かう思いを強く持ち、がむしゃらにがんばっていれば、いつか誰かが認めてくれると分かったことは大きいです」
とはいえ決して簡単ではない千回もの路上ライブをなぜ実現できたかというと「頑固だから決めたことはやり切りたかったから」。そんな彼女が、強い意志を発揮するものは音楽活動に限らない。中学時代から子供たちが飢餓に苦しむ途上国の現状に心を痛めていた彼女は、楽曲の売り上げの一部を使い、毎年1校ずつ途上国に学校を建設。現在7校目が建設中だ。
傷つくのは誰だって嫌。だから行動するしかない
「どんな小さな行為でも大きな意味があるし、誰でもできることは何かしらある。今の日本にはいつまでも親に甘えたり、自分の殻の中に閉じ込もっている人もいます。自分を変えたければ殻から一歩踏み出す勇気を持ってほしい。誰でも傷つくのは嫌。私だって嫌です。結局、不安は行動で乗り越えていくしかない。目標に挑戦することで、自分がどこまでやれるかという向上心を感じられるし、達成したら大きな喜びが待っています」
八方ふさがりの状況を自ら切り開き、目標に向けコツコツと努力してきた彼女の言葉には説得力が宿っている。
「今までは『絶望の中の希望』が私の曲の一つのテーマでした。それは自分の生き方にそれが欠かせなかったからですが、今は変わりつつあります。その変化していくさまざまな瞬間を切り取っていきたい。そして、聴いてくれる方の人生とつながり合うような曲を一つでも多く作りたいですね」
ヒーローへの3つの質問
現在の仕事についていなければ、どんな仕事についていたでしょうか?
たぶんNGOのような途上国の開発支援機関などで働いているか、ボランティア活動を行なっていたと思います。
人生に影響を与えた本は何ですか?
ヴィクトル・ユゴーの「ああ無情」です。小学2年生で最初に読んだ時は、漠然と「いい話だな」と思っただけでしたが、中学で改めて読み、さらに高校生、現在と年を重ねて読むごとに、味わい深くなっています。そこには人生の縮図が描かれていて、主人公のジャン・バルジャンには敬服しています。どんなに苦しい時にも愛を忘れずに生きていく彼の姿に触れると、読むたびにものすごく熱いものが体の中に流れる気がします。
あなたの「勝負●●」は何ですか?
勝負「睡眠」です。コンサートの前の日はよく眠れるように気をつけています。でも、もともと寝つきが悪いので、コンサート前は「寝なきゃ!」とプレッシャーがかかって余計眠れなくなってしまうこともあります(笑)。休みの日などは、たくさん寝てしまうタイプなので、自分にとってどのぐらいの睡眠時間がコンディションがいいのか、時間を変えていろいろと試しています。
Infomation
川嶋あいさんのニューアルバム「24/24」が5月26日にリリース
2010年度ライブツアーも決定!
24歳の川嶋あいさんが等身大の自分自身をテーマにしたアルバム。TBS「がっちりマンデー!!」エンディングテーマ「春の夢」、テレビ朝日系「ビートたけしのTVタックル」エンディングエーマ「歯車」の他、「Color」「大好きだよ」「さくら」など全13曲を収録。また2010年度のライブツアーは大阪、名古屋、石川、神戸など全国11カ所を巡ります。毎年恒例で行う8月20日のライブは東京国際フォーラムにて開催決定。
【24/24】
定価/初回盤CD+DVD ¥3,990(税込)
通常盤CD ¥3,150(税込)
発売元/(株)つばさレコーズ
【Ai Kawashima Live Journey 2010】
公演日/8月20日(金)(開場/17:30 開演/19:00)
会場/東京国際フォーラム・ホールA
チケット料金/全席指定¥4,800(税込)
一般発売/6月5日(土)
問い合わせ/キョードー東京
TEL03-3498-9999