第一線で活躍するヒーローたちの「仕事」「挑戦」への思いをつづる
Vol.87俳優 染谷将太
壮絶な撮影現場も経験
Heroes File Vol.87
掲載日:2012/11/9
映画『ヒミズ』で、残酷な青春を生き抜く中学生を独特の存在感で演じた染谷将太さん。同作でベネチア国際映画祭の新人俳優賞を受賞し2013年には蜷川幸雄さん演出の舞台に出演するなど、ますます活躍の場を広げている。そんな実力派若手俳優が語る“演じることの魅力”とは。
Profile
そめたに・しょうた 1992年東京都生まれ。2001年映画『STACY』でデビュー。子役、若手俳優として多くの映画やドラマに出演。11年『ヒミズ』でベネチア国際映画祭マルチェロ・マストロヤンニ賞(新人俳優賞)受賞。13年に初の舞台「祈りと怪物 ~ウィルヴィルの三姉妹~ 蜷川バージョン」出演予定。東京公演は1月12日(土)からBunkamuraシアターコクーンにて。
圧倒的な存在感を示した『ヒミズ』での演技
園子温監督の映画『ヒミズ』に主演し、2011年のベネチア国際映画祭で共演の二階堂ふみさんと共に新人俳優賞を受賞。一躍脚光を浴びる若手俳優となった。しかし本人は、受賞後の環境の変化を至って冷静に受け止めている。
「自分ではそれをきっかけに変わったという自覚はないですね。性格も以前と一緒ですし。ただ、周りが変わったのは確かなので、それに対応して変化した部分も多少あるのかなとは思いますけど」
『ヒミズ』では、時に淡々と、時に感情をむき出しにし、絶望のふちにある主人公の姿を演じた。スクリーン上で、圧倒的な存在感を放ったのである。
デビューは9歳。「大人たちが面白いことを真剣にやっている」、その映画の現場に心惹(ひ)かれた。本格的に映画、そして俳優の面白さに目覚めたのは、13歳で廣末哲万監督の『14歳』に出演した時だ。
死んでもおかしくない場面が何度もあった
「出演者として出来上がった作品を見た時、『あのプロセスを経てこういう作品が出来るのか!』と衝撃を受けたんです。自分の中で世界が広がるようなものを感じて。たとえ食べていけなくても、ずっと役者をやっていきたいなと、それ以来思うようになりました」
その後も数々の映画やドラマに出演。そして19歳で園監督と出会う。
「最初に『お前とは仲良くなるつもりはない。どんな目に遭うか覚悟しておけ』と言われました。その通り、現場ではメチャクチャにダメ出しされて、追い込まれて。でも、園さんは役者をその気にさせるのがうまいんですよ。全否定された後の、『頑張れ!』という一言がものすごく心に響く。その瞬間、こちらの気持ちが解放されるんです」
リハーサルを最初のシーンからラストまで通しで行ったり、ほぼカット割りをせずに同じシーンを角度を変えて何回も撮ったりといった、監督独特の様々な手法が相まって、撮影中は「今まで見たことのない世界へ持っていかれるような感覚」を体験したという。
「住田(主人公)を演じている間はずっと躁(そう)状態でした。暴力シーンが多い映画でしたから、冗談じゃなく、死んでもおかしくないようなタイミングが幾つもあったんです。でも、自分ではストップが利かない。もちろん監督も止めてくれませんし」(苦笑)
園監督とは、お互いに緊張感を保ったまま、それでも自然とコミュニケーションが出来たという。妥協をしない映画人としての思いが通じ合ったのだろう。今ではプライベートでも交流する間柄だ。
作品や監督ごとに新しい自分を知る
子役時代から、撮影現場以外で特別に演技のレッスンを受けた経験はない。自分の型を現場に持ち込むのではなく、常に監督や共演者とのガチンコ勝負で自分の中から生まれてきたものを出していく。そのため、作品ごとに演技のスタイルは自然に変わり、毎回新しい自分を知ることになる。
「もちろん、求められれば必要な準備はしますが、それ以上に自分で事前に役のイメージを固めたり、立ち回り方を決めたりはしません。かつて、そういうことをしたこともあったんです。でも、出来上がった作品を見たら説得力がなかった。だから、このやり方は自分には合わないなと」
俳優として強くこだわっているのも、その「説得力」だ。
「映画で、役者さんが作品に初めて登場して、まだ何もしゃべっていない、何も行動を起こしていないのに何となく分かるっていうことがありますよね。それが究極だと思うんです」
その場に立ってみて何が生まれるか
強烈に印象に残っているのは、映画『ブギーナイツ』にゲイ役で出演したフィリップ・シーモア・ホフマン。普通の男性の服装で、フレームの外側から歩いてくる姿を見た瞬間、「あ、ゲイだ」と分かったという。
「なんだこれ? という感覚でしたね。彼は他の作品でも、そこに居るだけで人間味が伝わってくるような演技をする。一つひとつの芝居に説得力があるんです。自分もいつかそういう役者になりたいなと思っていますけど……たぶん一生無理ですね」
単なるテクニックでは到底そんな演技は出来ない。言ってみれば人間力。それまでに俳優として、一人の人間として積み重ねてきたものが問われるのだと染谷さんは話す。あえて「自分には無理だ」と言うのも、数々の作品、現場を通して演技というものの奥深さを感じてきたからだ。
2013年1月には、ケラリーノ・サンドロヴィッチ作の舞台「祈りと怪物 ~ウィルヴィルの三姉妹~」に出演する。演出は蜷川幸雄さん。染谷さんにとって初めての舞台だ。
「舞台はいつかはやらなきゃいけないし、やりたいと思っていました。今の自分が蜷川さんに演出されるとどうなるのか、すごく楽しみです」
舞台では、今までの映画やドラマとは異なった演技が求められることになる。しかし、いつも通り特別な準備はしない。
「全てはその場に立ってみて、ですね。もちろんこういうやり方には怖さもあります。でも、いつもそうなんですけど、始まると興奮している自分がそこに居る。怖さなんてどこかへ行っちゃうんです」
ヒーローへの3つの質問
現在の仕事についていなければ、どんな仕事についていたでしょうか?
映画が好きなのでスタッフの仕事にも興味があります。俳優でなければ、やはり監督がいいですね。一度、ショートムービーの監督をやらせてもらったこともあるんです。あと、照明や録音の仕事もやってみたいです。
人生に影響を与えた本は何ですか?
ここ最近で感動したのはロベール・ブレッソン監督の著書『シネマトグラフ覚書 ~映画監督のノート~』。映画論による演劇論批判、演劇論による映画論批判のどちらもあって、それが矛盾せずに成立している。すごく面白かったですね。
あなたの「勝負●●」は何ですか?
これといってないんですけど、強いて挙げるなら寝ることですかね。初日の前の日はしっかりと睡眠をとって臨みたいんです。ただ、意識しすぎて結局眠れないことがほとんどなんですけど(笑)。
Infomation
染谷将太さんが初の舞台に挑む!
KERA×蜷川幸雄の演出対決も注目の
「祈りと怪物 ~ウィルヴィルの三姉妹~」
ケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)さん書き下ろしの戯曲を、作者のKERAさんと蜷川幸雄さんが異なるキャストでそれぞれ演出する「祈りと怪物 ~ウィルヴィルの三姉妹~」。作家ドストエフスキーの小説「カラマーゾフの兄弟」を、作家ガブリエル・ガルシア・マルケスが「カラマーゾフの姉妹」として翻案したら……。そんな興味からこの脚本が誕生した。蜷川演出バージョンで、初の舞台となる染谷将太さんはどう演じるのか? 見どころ満載の作品だ。
東京公演:2013年1月12日(土)~2月3日(日)
会場:Bunkamuraシアターコクーン
脚本:ケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)
演出:蜷川幸雄
出演:森田剛、勝村政信、原田美枝子、染谷将太、伊藤蘭、古谷一行、他
問い合わせ先:Bunkamura TEL03-3477-3244
公演サイト http://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/13_inorininagawa.html
※大阪公演は2013年2月9日(土)~17日(日)にイオン化粧品 シアターBRAVA!にて。