第一線で活躍するヒーローたちの「仕事」「挑戦」への思いをつづる
Vol.179女優 水野美紀
生来、環境適応型。大変な時こそ前を向く
Heroes File Vol.179
掲載日:2018/3/22
常に自身のイメージを覆すような役どころに挑戦している女優・水野美紀さん。ドラマや映画に数多く出演し、30代には演劇ユニット「プロペラ犬」を共同主宰で旗揚げするなど舞台での演劇活動に積極的に取り組んでいる。その一方で2017年には第1子を出産。公私共に充実した人生を歩む水野さんの、その原動力を探った。
Profile
みずの・みき/1974年生まれ、三重県出身。90年に女優デビュー。2007年に演劇ユニット「プロペラ犬」旗揚げ。18年4月7日(土)から東京・渋谷のBunkamuraシアターコクーンで上演が始まる舞台、シス・カンパニー公演「ヘッダ・ガブラー」(演出:栗山民也)に出演予定。
クールで、どこか骨太な役柄が多い印象だが、昨年はドラマでの怪演ぶりが話題になるなど、ここに来てますます多彩な演技力を光らせている水野さん。今挑んでいるのは2018年4月7日(土)から始まる舞台「ヘッダ・ガブラー」だ。翻訳ものの演劇は久々。「ヘッダという女性を中心に描いた濃密な心理ドラマです。演じ方次第で印象がガラリと変わる戯曲なので、本番までに共演者の方々と一緒により面白く魅力的な舞台にしていけたらなと思っています」
漠然と舞台にあこがれを抱いたのは小学6年の時。漫画『ガラスの仮面』を読んでからだ。その後、中学1年で受けたCMモデルコンテストでの準優勝をきっかけにスカウトされ、芸能活動を開始。高校1年で上京して本格的にキャリアをスタートさせた。
生来、石橋をたたく前に渡る性格で、何でもまず行動してから決めるという。「子供のころから順応性があって環境適応型なんです(笑)。当時も親元を離れることに不安はなく、むしろ芸能界という未知なる世界への好奇心でいっぱい。毎日が新鮮でワクワクしていた気がします」。レッスンに通いながらCMなどのオーディションを受ける毎日で、時間があれば図書館へ行って演劇の本を読み、勉強していた。
19歳で出演した化粧品のCMが話題となり、にわかに注目を集めて徐々に仕事も増えていく。そんな水野さんを更に有名にしたのが大ヒットドラマ「踊る大捜査線」だ。物語のキーとなる女性役でブレークする。
「確かにあのドラマで多くの方に自分を知ってもらえ、転機だったと思います。ただ私の中で一つのターニングポイントと感じたのは、ドラマ『女子アナ。』で主演させてもらった時です。連ドラの主役を一つの目標にしていたので、それが達成できて目指すものがなくなり、がくぜんとしました。でも気持ちを切り替え、さてここからどうするかと考え始めたんですね」
そんな中で劇団☆新感線の舞台を見に行く機会があった。感動しながらも「そういえば元々舞台にあこがれていたのに、見に行くことすらしていなかった」とハタと気づかされ、足を運ぶようになる。ほどなくして幸運にも劇団☆新感線の舞台「アテルイ」に出演が決まった。
「ただ、求められることが全然できなかった。今までやってきたことは何だったのか、ガツンと殴られたようでした。でもそれによって、舞台にちゃんと立てる女優になるという新たな目標を持ったんです」。大変な時こそ逃げずに前向きになる。それが水野さんの底力だ。
人生は自分のペースで安心する方向へ進もう
ドラマや映画などへの出演が相次ぐ一方、脚本家と共同で演劇ユニット「プロペラ犬」を旗揚げし、精力的な演劇活動を続ける水野さん。「年齢と経験を重ねながら自分が変化している、ということを感じますね」と語る。「20代はとにかくがむしゃら。30代に入って自分の資質みたいなものを意識するようになり、40代の今はいろんな意味で視野が広くなりました」
それを現在取り組んでいる舞台「ヘッダ・ガブラー」の登場人物に例えると、20代の水野さんは主人公の女性そのものだったという。「自意識が強くて、自分でも窮屈な思いをしながら生きているようなところがありました。それが30代に入ったころから、今回私が演じる女性のように素直さが出てきたようです(笑)」
こうした変化を生み出してくれたものの一つが、やはり演劇ユニットだ。「プロデュース側に立つことで、仕事に対する興味の幅ががぜん広がりました。お芝居を見に行っても演出の仕方や役者さんのセリフ、言い回し、リズムなどを細かくチェックすることが多いんです。でも、そういうことの積み重ねが、役者としての力量も高めてくれているんだと思います」
舞台や映像に女優として立つ際も、「自分が」という我を通すのではなく、物語やその世界観のパーツになりきるため、自らプランを立てるというより、相手役から発せられるものに素直に反応してみることが増えたという。
「ただし、人に合わせるというのは仕事の場では大切な姿勢ですが、自分の人生においては、基本的に周りのペースに合わせなくていいんじゃないかなと思っています。この年になって感じるのですが、進む方向やペースって人によって違う。私はやみくもにやってみるタイプですが、それをすべての人におすすめしようとは思いません。みんなそれぞれ自分が安心して進める方向、そしてペースを選んでいけばいいのではないかと思います」
水野さんは、これからの道を探りたくなると、自分が今置かれている状況をちょっと俯瞰(ふかん)して眺めつつ、舞台を見に行くそうだ。「舞台上で生身の役者がもがいている姿を見つめていると、自分と重なって私はこうすればいいんじゃないかと気持ちが確認できる。だから、悩んでいる人には舞台をおすすめします。生きるうえで大事なヒントや刺激をもらえますよ」
プライベートでは昨年(17年)、第1子を出産。「家では子供にかかりきりなので、移動時間にセリフを覚えるなど、やれることは仕事に出ている時間にすべてやります。子供がいるお陰で、仕事への集中力がすごく上がっていますね」
ヒーローへの3つの質問
現在の仕事についていなければ、どんな仕事についていたでしょうか?
通訳か翻訳の仕事に就いていたと思います。中1でスカウトされていなかったら、高校1年から海外留学をしたいと思っていたので。
人生に影響を与えた本は何ですか?
『サンフォード・マイズナー・オン・アクティング ネイバーフッド・プレイハウス演劇学校の1年間』です。高校1年で演劇の勉強を始めたころ、図書館で読みました。お芝居のハウツー本ですが、いろいろ読んだ中で一番実践的で分かりやすかった。後で購入し、今もずっと家の本棚にあって時々読み返しています。
あなたの「勝負●●」は何ですか?
「勝負おしゃれ」ですね。舞台初日などは新しい洋服をおろしたり、新しい靴を履いたりしています。
Infomation
舞台「ヘッダ・ガブラー」に出演!
女性の権利や自由が今なお叫ばれているけれど、比べものにならないほど封建的だった19世紀末に、画期的な女性像を提示したのが近代演劇の父と呼ばれたヘンリック・イプセン。彼の有名な戯曲「人形の家」と並ぶ代表作「ヘッダ・ガブラー」が、シス・カンパニー公演として2018年4月7日(土)~30日(月・振休)に東京・渋谷のBunkamuraシアターコクーンにて上演される。美しく才気に恵まれながら悪女的でもある主人公ヘッダを軸にした物語。ヘッダを演じる寺島しのぶさんをはじめ演技派キャストが集結し、その一員として今回、水野美紀さんが参加する。翻訳ものの舞台は久々ですごく楽しみにしているという水野さん。「物語は19世紀の閉鎖的な社会で起きる出来事ですが、現代にも通じる人間の愚かさ、滑稽さも描かれています。時代設定など気にせず楽しんでもらえる舞台です!」
演出:栗山民也
出演:寺島しのぶ、小日向文世、池田成志、水野美紀、段田安則ほか
公式サイト:http://siscompany.com/
hedda/
問い合わせ先:シス・カンパニー(電話03-5423-5906/11:00~19:00)