第一線で活躍するヒーローたちの「仕事」「挑戦」への思いをつづる
Vol.204 クリエイティブディレクター 小橋賢児
夢に縛られ、苦しい道を歩いていないか
Heroes File Vol.204
掲載日:2019/8/23
「人間・失格 〜たとえばぼくが死んだら」「ちゅらさん」など数々の人気ドラマに出演していた小橋賢児さんが、突然俳優活動を休止したのが2007年。
その後、世界を放浪するなどの紆余(うよ)曲折を経て、映画監督やイベント制作のプロデュースといった、幅広い分野で活躍するクリエーターへ。
そんな様々な経験から、「セカンドID」を持って自分らしく生きるすべを見いだしたという小橋さん。これまでの人生を振り返って頂き、その話を伺った。
Profile
こはし・けんじ/LeaR(株)代表取締役。1979年東京都生まれ。88年に芸能界デビュー、2007年に俳優活動を休業。その後、映画やイベントの制作を開始し、19年5月、横浜駅前にオープンしたキッズパーク「PuChu!」もプロデュース。著書『セカンドID』が発売中。
俳優、映画監督、クリエイティブディレクターと幅広く活躍してきた小橋さんが、2019年5月、初の著書『セカンドID 「本当の自分」に出会う、これからの時代の生き方』を発売した。20代でもがき苦しんだ経験と、それによって得た自分らしく生きるための方法などが独自の視点でつづられ、現在話題を呼んでいる。
「僕の人生は狙って作ってきたものではなく、目の前で起きたことを紡いでいったら、想像もしない未来にたどり着いたという感じなんです。もし夢や目標を掲げ、それだけを目指していたら今の自分にはなっていなかったと思う。一方、世の中には自らの夢に縛られ、本来自分が進むべきではない道を苦しみながら歩いている人も多いのではないか。そう考え、そんな人たちの一助になればと思って書きました」
8歳で芸能界デビューした小橋さん。俳優として「人間・失格 〜たとえばぼくが死んだら」「ちゅらさん」など数々のドラマに出演し、たちまち人気者に。しかし、年齢を重ねるほどにその状況に危機感を抱き始める。
「どちらかと言えば僕は思い立ったら行動する『WANT TO』の少年でした。それがいつしか俳優という立場に縛られ、しなければならないことを義務的にする『HAVE TO』の人になっていた。そしてそれをつらく思う感情は押し殺し、あえてやり過ごしていました」
でもついに、27歳の時、約20年間続けてきた俳優活動の休止を決める。前年のネパール旅行が、将来の安定のために今をないがしろにしている自分に気づかせてくれたのだ。
「もう自分にうそがつけなくなった。逃げるように渡米し、約10カ月を過ごしました」。その後は世界各地を放浪。たくさんの出会いと気づきを得て帰国。しかし波乱は続いた。「何でもできる気がして意気揚々と帰ってきて色々チャレンジし始めたのですが、何をやってもうまくいかない。そのうち貯金が尽き、病気で体調も崩しました」
こうして今度は深い闇の中でもんもんとする日々。小橋さんは常々「男は30歳からだ」と思っていたが、その誕生日を目前にしてどん底状態。しかし、この完全にゼロになったと思える状況が、逆に自身を開き直らせた。
「ここまで落ちたのだから失うものはない。この際バカなことをやってやろうと自分の誕生日パーティーをプロデュースしたんです」。これが予想外に評判を呼び、300人ほどが集まってくれた。そしてその縁で知り合った人たちのイベントを手伝うようになり、やがて「ULTRA JAPAN」という大イベントをプロデュースする仕事につながっていく。
自分の「鳥肌」を信じ、小さなことから始める
俳優を休業して30代に入った小橋さんは、映画監督やDJなどに取り組む。そして、世界23カ国で開催されているダンスミュージックフェスティバルの日本版「ULTRA JAPAN」のクリエイティブディレクターや、未来型花火エンターテインメント「STAR ISLAND」の総合プロデューサーなども担っていく。
更に、2年前に1児の父となってからは、子供たちの未来に形として普遍的に残るものを作りたいと考えるようになり、横浜のキッズパーク「PuChu!」(07年5月開業)をプロデュース。これ以外にも千葉の公園プロジェクトなどに携わっている。
「僕にとって30代は、子供のころの感覚を完全に取り戻した感じなんです。面白そうだと思って鳥肌が立つことや、脳みそがスパークすることこそが今の自分が本当にやりたいことなんだと捉え、それら一つひとつを大切にしながら突き進んでいますね」
何かアイデアを構想する時、「出会い」「ストック」「違和感」を大事にしているという。「例えば花火師と出会い、経験と実績で培ってきたノウハウと仲間というストックと、『花火大会はなぜずっと無料のままなのか? もっとアップデートしていくべきでは?』という違和感から生まれたのがSTAR ISLANDです」
予算不足で花火イベントが中止になることが多かった当時、花火という伝統を残していくためには、音楽やパフォーマンスなど付加価値をつけて有料化し、今の時代の仕様にアップデートしてファンを増やすことが先決だ、という発想からこのイベントは誕生した。
こうした活動やこれまでの経験を通し、小橋さんには伝えたい思いがある。それは、一つの夢や職業に縛られる必要はないということ。「新たなものに身を投じていくことで、今まで知らなかった『もう一人の自分』に出会えます。これを僕は『セカンドID』と呼んでいる。仕事でなくてもいい、今までとは違うアイデンティティーを持てば、より自分の可能性を広げることができると信じています」
では、どのようにしてセカンドIDを持てばいいのか。小橋さんは大きなことではなく小さなことから始めればいいと語る。
「最初は意味がないと感じることでも、目の前の出会いや出来事を一つひとつ重ねていくと、その行動が点となり、振り返った時には線としてつながっています。僕自身、小さなワクワクを信じ、たとえ失敗してもあきらめずに行動を重ねてきたことがすべて今へとつながっていました。これからは心の時代。何よりも、自分の『鳥肌』を信じてみてください」
ヒーローへの3つの質問
現在の仕事についていなければ、どんな仕事についていたでしょうか?
子供のころは宇宙飛行士になりたかったです。でも、ちょっとあまのじゃくな子だったので、「人の作ったロケットには乗りたくない」と思い、小学校の帰りに近くの工場へ寄って、落ちているネジやボルトを拾い集めて自分で作ろうとしていました。今でも宇宙空間を旅してみたいという思いはあります。
人生に影響を与えた本は何ですか?
バックミンスター・フラーの著書『宇宙船地球号操縦マニュアル』です。地球を宇宙を旅する一隻の船になぞらえ、僕らは有限な資源の中でみんなで適切な資源管理をして生きていく必要があるのだと伝えてくれる一冊。30歳のころに読んで大いに刺激を受けました。
あなたの「勝負●●」は何ですか?
僕のかかわるイベントのチケットが売れていないとか、窮地に陥りそうな時はいつも、「自分を信じろ」といった言葉を声に出して言うようにしています。
Infomation
著書『セカンドID』が発売中!
人気俳優が突如の休業、死の淵をさまようような経験をし、やがて日本を代表するマルチクリエーターへ。そんな小橋賢児さんの著書『セカンドID 「本当の自分」に出会う、これからの時代の生き方』が2019年5月に発売された。8歳で芸能界という華やかな世界へ入ったものの、30歳を目前に深い闇の中に落ち込んで夢も希望も持てなくなる。しかしそこからさまざまな出会いを繰り返し、やがて「ULTRA JAPAN」「STAR ISLAND」といった大規模なイベントを手掛けるまでに。その軌跡の詳細と共に、同書には多様化した現代社会で自分らしく生きるためのヒントが満載。新しい自分、新たな自分の可能性を見いだしたいと思っている方におすすめの一冊だ。「ただ、これは自己啓発本でもビジネス本でもありません。僕が今まで出会ってきたリアルな出来事を、皆さんにも自分のことのように感じてもらい、そこから何かを得ていただければいいなと思って書いた本です」と小橋さん。
発行元:きずな出版
定価:1,400円(税別)