6対4で「好き」が勝つならまだイケる
池松:黒木さんは、役者という仕事のどんなところに魅力を感じていますか?
黒木:いろんな方と出会えるところです。役者以外の方ともお会いする機会が多いので、そうしたなかでさまざまな考え方を聞けるのはすごく楽しい経験ですね。自分にとって刺激になることが多いんです。
池松:先輩から言われて心に残っている言葉とかありますか?
黒木:年上の女優さんから「年を取ると楽しいよ」とよく言われるのが心に残っています。池松さんは2018年、ドラマ「宮本から君へ」で会社員を演じていましたね。あれもすごくすてきだったのですが、実際に会社員を演じてみて、俳優との違いとか何か感じるものはありました?
池松:ドラマで経験したぐらいでは、会社員がどういうものなのか本質的には分からないですね。ただ、自分には少なくともネクタイを締めて働くのは向いていない気がしました(笑)。かといって俳優が向いているとはまだ思っていないのですが。
黒木:十数年と長くキャリアを積んできても、自分に向いているかどうか分からないというのはちょっと意外です。
池松:俳優って良くも悪くも生き恥をさらして生きているところがあるじゃないですか。しかもそれが作品だったり、もしくはシーンの断片だったりして人の記憶に何かしら残っていく。そういう仕事だからこそうらやましいと思う人もいるだろうと思うけれど、僕からすると、それが良くも悪くもっていう感じではあります。
黒木:それでも続けているのは?
池松:雑な言い方ですが、結局は好きか嫌いかなんだと思います。「辞めたい」と思ったとしても6対4で「好き」が勝っているから、「まだイケるかも」って思えるし。俳優って基本的に受け身ですよね。だから作品との巡り合わせで、「これならやりたいな」と思うものが続いている以上は続けていけばいいんじゃないかなって。
黒木:そうですね、好きか嫌いかっていう一番シンプルな問い掛けを自分にしながら進んでいくのがいいんでしょうね。
池松:「まだイケるかも」って思えること自体が、次へと進む原動力になってくれる気がします。
すべて自分次第で人生は刻まれていく
黒木:池松さんにとって、仕事とは?
池松:難しいな。仕事という感覚がほとんどないので。今回、黒木さんと一緒に出演した『散り椿』の監督・木村大作さんも、仕事をしている感じではなかったじゃないですか。僕自身、新しい作品と向き合う度に何かと闘っているような感覚はあるんだけど、それ以外のことはあまりなくて。
黒木:なるほど。私の場合、舞台に関しては学生時代からやってきたことなので仕事とは思っていないのですが、映像はまだちょっと怖いという意識があって、毎回「よいしょ」って自分を奮い立たせながら挑んでいます。そういう意味で「仕事」として捉えているところがありますね。ところで今日一番聞きたかったことなんですが、今後やりたい役ってありますか?
池松:役柄に関してはないのですが、良い作品に出たいと最近思い始めました。実は2人目のめいっ子が生まれたんですね。彼女がこれから先どんな風に成長していくか分からないし、僕の出演作品を見るかどうかも分からないのですが、少なくとも彼女が見て楽しめる「良い作品」に出たいなと。だから、あまり脱ぐのはやめようかなとかね(笑)。黒木さんはどうですか?
黒木:私はフランス映画に出演したいです。とにかく自分が経験したことがないものに出会いたいし、誰もやったことのないことをやってみたい。夢は大きいほうがいいと思うので、最近そんなふうに感じています。
池松:『散り椿』の撮影後、ボルダリングへ行くと聞き、黒木さんって結構アクティブなんだと知りました。女優としてもいろいろ挑戦されていくんでしょうね。
黒木:そうありたいです。ありがたいことに「好き」を仕事にできたわけですから頑張らないと。ただ、周りには仕事に悩む友人もいますよね。私たちは18年の今28歳ですが、このころって悩む時期なのでしょうか?
池松:先日、相談された友人には「俺もあと5年は頑張るから、一緒に頑張ろう」と。僕もまだまだ悩みながら進んでいるので偉そうなことは言えないけれど、人生の刻み方や物事の楽しみ方って人からもらえるものではありません。どんなに悩んでもすべては自分次第なんだ、という気持ちだけは忘れずに持っていてほしいなと思います。
リーダーが語る、アシタを開く言葉
池松壮亮さん
「大切に思えるものに出会えれば、それだけで幸せだと思っております」
映画『散り椿』の中で主人公・新兵衛(岡田准一)のセリフ。脚本をもらった時に最初のページに書かれていて刺さりましたね。そのとおりだなと思いました。
黒木華さん
「楽しんでやる」
どちらかと言えば、ネガティブな性格。ある時、母に相談したら「死なないから大丈夫よ」と。ストンと腑(ふ)に落ちて、それからは何でも楽しんでやることを心掛けています。
池松壮亮
1990年福岡県生まれ。2003年映画『ラストサムライ』でデビュー。主な映画出演作に『春を背負って』『紙の月』『劇場版MOZU』『映画 夜空はいつでも最高密度の青空だ』など。今年はドラマ「宮本から君へ」を始め、映画『君が君で君だ』『斬、』(18年11月24日<土>公開)などにも出演。現在公開中の『散り椿』では重要な役どころを演じている。
黒木華
1990年大阪府生まれ。2010年NODA・MAP番外公演「表に出ろいっ!」でヒロイン役を射止める。主な映画出演作に『小さいおうち』『リップヴァンウィンクルの花嫁』など多数。18年公開作に『未来のミライ』『日日是好日』『億男』『ビブリア古書堂の事件手帖』『来る』。18年現在はNHK大河ドラマ「西郷どん」に出演中。『散り椿』では主人公新兵衛(岡田准一)にひそかに思いを寄せる里美を好演。
※2人が姉弟として出演する映画『散り椿』(主演:岡田准一、監督:木村大作)が全国ロードショー中。