小さな「できる」を大きな「やる気」に
廣瀬:小林さんが「ビリギャル」のモデルだったというのは前からよく知っています。出身大学も同じですよね。
小林:光栄です。高校時代にお世話になった塾講師、坪田信貴先生が書いた『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』がベストセラーとなり、そのストーリーの本人として活動させてもらうようになりました。ところで、私はこの対談に向けて廣瀬さんの著書『なんのために勝つのか。』を読ませて頂きました。
廣瀬:ありがとうございます。
小林:5歳から大学までラグビーをやってきたけれど、卒業後は大学院進学を考えていたそうですね。しかし、社会人でもラグビーを続けると決めて東芝へ入社されます。この決断が印象的でした。
廣瀬:大学院の願書を出し忘れたというのもありますが、ラグビーは今しかできないと思ったのが大きかった。何より仲間と共に苦労し喜びを分かち合えるラグビーというものが大好きで、やり切ったと実感できるまで頑張ることにしました。
小林:その選択が日本代表キャプテンとしての活躍につながったわけですね。
廣瀬:本当に社会人ラグビーの道を選んで良かった。言い尽くせないほどの経験をさせてもらうことができたから。小林さんが今でも良かったと思う経験は?
小林:やはり坪田先生と出会い、大学受験に挑んだことです。あそこから人生が変わった。先生は、大人にも社会にも絶望していた高校生の私に、自分の人生と世界を変えられる力が私にもあると示してくれた。導き方も上手で、小さな「できる」を大きな「やる気」に変える、が合言葉でした。自分のレベルに合ったものから着実に力にしていく。お陰で勉強が好きになりました。大学合格より、あの時の死ぬ気で勉強を頑張った経験が今の私につながっている。廣瀬さんは中学からキャプテンなので、坪田先生に近い立場にいたのかなと想像していました。
廣瀬:確かにチーム一人ひとりのメンタルは常に気に掛けていました。それがキャプテンの役目だと捉えていたので。実際、みんなの気持ちがそろうとめちゃくちゃいいラグビーができるんです。
小林:ご自身のモチベーションは?
廣瀬:自分は何のためにラグビーをやるのか、チームとして何を成し遂げたいのかを意識すること。と言いつつも、僕も仲間に支えてもらっていました。
プレッシャーで自らを再燃させる
小林:実は私、大学卒業後、3年ほどウェデイングプランナーをしていました。
廣瀬:サービス業ですね。
小林:学生時代、アルバイト先の居酒屋の店長に感化され、サービス業の素晴らしさに目覚めたんです。でも、私をモデルにした「ビリギャル」の本がヒットし、映画化された頃から講演依頼や取材を受ける機会が一気に増えた。結局、大好きな仕事だったのですがウェデイングプランナーをやめることにしました。
廣瀬:その決断には相当な覚悟が必要だったのでは?
小林:そうですね。ただ、講演先で「ビリギャルに救われた」と感謝されることがあまりに多く、私だからできることがあるのではないかと思えてきたんです。それに高校時代の私のように、周囲から理解されずに苦しむ子どもたちのSOSを感じることも多かった。自信をなくしている子どもたちに「やってみなきゃわかんないっしょ!」というメッセージを届けるのが使命だと、講演活動に仕事をシフトしました。
廣瀬:素晴らしい。講演は全国各地へ?
小林:コロナ禍になる前は年間100本以上あり、楽しかったので声が掛かればどこへでも行きました。でも次第に講演だけでは子どもたちを救えないと思えてきたのと、ビリギャルのモデルとしてだけではなく、教育の専門家として子どもたちの未来に貢献したいと思うようになり、大学院へ進学しました。
廣瀬:熱いですね。思いが伝わってきます。教育を変えたいと言いつつも、実際アクションを起こす人は決して多くない。小林さんの行動力は素晴らしい。
小林:廣瀬さんもラグビー選手の現役引退後、大学院へ進学されたそうですね。
廣瀬:色々な業界の特色や会社経営など、ビジネスの基礎を学びたかったので。それとラグビーをやめて燃え尽きたのもあり、何か自分にプレッシャーを与えてくれるものが欲しかったんです。
小林:分かります。私もチャレンジしていないと怖い、というところがあります。
廣瀬:自分らしく生きるためにラグビー以外の道を選びました。あえて居心地の悪い世界へ飛び込んでみるというのが好きなんです。大学院でMBAを取得し、東芝を退社して起業しました。
(続きは3月4日(金)公開の後編で)
リーダーが語る、アシタを開く言葉
廣瀬さん
「オモロく生きる」
せっかく授かった命を生きているからこそ、楽しくありたい。物事も捉え方次第で変わります。大変な時こそ、オモロく生きたいですね。
小林さん
「意志あるところに道は拓ける」
坪田先生が私にくれた言葉です。「どうせ無理だろう」とやる前から諦めてしまっては、なにも始まりません。「やってみなきゃわかんないっしょ!」で、なんでもやってみなくちゃ。
廣瀬俊朗
1981年大阪府生まれ。元ラグビー日本代表キャプテン。現在は(株) HiRAKU代表取締役として、スポーツの普及や教育、食、健康に関わる様々なプロジェクトに取り組む。2021年11月、企業とのコラボ企画で監修を務めた絵本『ぼくラはばラばラ』を発売。ワインとラグビーを絡めたオンライントークイベント「廣瀬俊朗のワインにトライ!」も好評で、次回は22年3月12日(土)を予定。
小林さやか
1988年愛知県生まれ。『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』(坪田信貴著)で一躍「ビリギャル」として有名となる。講演活動やイベント企画のほか、教育学研究のため大学院へ進学し2021年に修了。著書『キラッキラの君になるために ビリギャル真実の物語』。ユーチューブ「ビリギャル チャンネル」の企画「study with me」が人気。