大企業への転職にリスクはないのか? 大企業が合う人・合わない人
【神吉直人氏インタビュー 第3回】
著書「小さな会社でぼくは育つ」を執筆した神吉直人氏へのインタビュー。これまでは「中小企業で働くことで、なぜ幸せになれるのか」や「中小企業でうまくいかない人の悩みを解決するための方法」について伺いました。
最終回は、中小企業から大企業へと視点を変えて、「大企業が合う人・合わない人」を探るため、神吉氏から見た大企業で働くことについてのメリットやデメリットなどについて伺いました。
大企業のメリットは、「すごい」「学べる」「大きい」
――大企業のメリットについてお伺いしたいのですが?
神吉直人(以下、神吉):良い大学でも同じかと思いますが、「同期や先輩にすごい人がいる」可能性が高まることが一番のメリットですね。中小企業は社員数が絶対的に少なく、採用が数年に一度という会社も珍しくありません。
そうなると、同期と切磋琢磨するみたいなこともできませんし、世代の近い先輩との交流も、大企業と比べればどうしても少なくなってしまいます。
更に、取引先でも刺激的な出会いがある可能性も、大企業のほうが比較的高いかもしれません。
また、人事だけを担当する人員を置く余裕のない中小企業では、人材育成の体制が整っているとは限りませんから、積極的に自分から仕事を学んでいく必要があります。大企業であれば、受動的な人であっても、研修などで、基本的な技能から順を追って学ばせてもらえるかもしれません。先輩が後輩の面倒を見ることが仕組みになっていることも多いでしょう。
しかし、中小企業では「名刺の渡し方」すらも、自分で学ぶ必要があるかもしれないのです。
――著書で、大企業の「メンター制度」に問題があると言われていましたが。
神吉:批判をしたつもりはないのですけどね。どんな制度にも必ず問題は生じ得ますし。メンター制度(上司とは別に年齢の近い先輩社員を、指導・相談役として新入社員をサポートする制度)については、ミスマッチの可能性が指摘できます。人間関係のミスマッチは、心身の不具合につながる可能性が怖いですね。
メンター制度は、指導される側よりも、指導する側の先輩社員の成長のほうが期待できると思います。面倒を見なければならない後輩ができて、彼らに何かを説明するには、自分の知識の整理整頓をしなければなりませんから。また、後輩に投げかけた言葉は得てして、「自分はそれをやらなくていいのか?」みたいな感じで自分に戻ってくるものです。
――大企業のデメリットとして、会社の歯車となってしまうという印象もありますが。
神吉:大企業は一般的にビジネスの規模が大きいものです。大きな仕事をするには、どうしても歯車のような役割も必要です。
ただ、自分の持ち場の意義を理解して主体的に歯車を務めることと、言いなりになって従っているだけであることでは随分事情が異なります。どのような姿勢で歯車としての役割を担うかによって、その経験からの学習の成果も変わります。おのずとキャリアパスも異なるでしょう。
将来的に、ビジネスの中心を担うことができるのであれば、例えば世界を巻き込むような仕事ができる可能性もあるわけですから、そこまでいけば大企業は面白い舞台でしょうね。
大企業でも中小企業でも「満足」するかどうかは分からない
――中小企業での満足は、「大企業を知らないから」とも言えますか?
神吉:これもまた会社に限った話ではありませんが、もちろんそういう見方もできますね。何に満足を感じるかは、人それぞれです。
大企業で大きなプロジェクトを遂行できたら、満足感はあると思います。
しかし、例えばBtoCに関するプロジェクトの中で、自分の仕事は何らかのシステムを構築するなど大きな枠組みを作り上げることであって、個々の利用者と直接やり取りすることではなかったとします。
そうすると、利用者のリアクションを直接見ることは難しいでしょう。
逆に、小さな取り組みであれば、一人ひとりの顔を見て、声を掛けていくような仕事ができる。ここに、大きな仕組み作りよりも、人との触れ合いを重視する人がいれば、後者のほうが満足できるわけです。大企業から中小企業に転身する人の中には、このようなことに喜びを見いだす人も少なくありませんね。
「中小企業で満足している人は、大企業を知らないからか?」という問いでしたが、経験していない何かと比べて、現状を評価するのは、あまり幸せな態度ではないように思います。今いるところで満足できるのであれば、それで十分ではないでしょうか。
――著書の中で、中小企業では「職の満足度が高い」との記述がありましたが、大企業はどうなのでしょうか。
神吉:これも企業の規模で一般化するのは難しいですね。福利厚生が充実しているなどがあれば、満足度は高まるように思いますが……。 ここまで、「満足」という言葉を気軽に使ってきましたが、多義的な解釈ができますし、あまり一般論には向かない概念です。
「あなたは満足していますか?」というシンプルな質問にしても、例えば上司から見て優秀で意欲のある人が「まだまだ自分には不十分なことがあるから」と捉えて「満足してない」と答えるかもしれません。
逆に、もっと上を目指すべき人が、適当な仕事で許されている現状を評して「満足です」と答えることもあるでしょう。こういう人の仕事に対する満足度の高さは、生産性を下げてしまうことも考えられます。
達成感や満足感については、メディアなどの外的な基準で定義されるのではなく、自分で気づいていけると状況が豊かになると思います。同様に、他人の満足を参照したキャリアパスの選択には、落とし穴があるかもしれませんね。
大企業で仕事の幅が狭まることはリスクになるのか?
――大企業に入るリスクはあるのでしょうか?
神吉:大勢の中に埋もれてしまう、自分の必要性を感じられなくなる、という可能性はあるかもしれません。繰り返しになりますが、受動的に、与えられた仕事の意味などを考えることなく日々を過ごしてしまうと、大企業の場合は担当する仕事が部分的であることも相まって、何も身に付かないという恐れはあります。そうなると、もし転職を考えた時に、自分の売りがない、という状況に陥っていることもあるかもしれません。
大企業でも中小企業でも成功するのは「できる人」になるように努力すること
――最後に、どういう人になることが、就職・転職で成功するのでしょうか?
神吉:身も蓋もありませんが、「できる人」になることが一番でしょう。では「できる」とは何か? というと、その条件は無限にリストアップすることができます。個人的には、あらゆる点で先回りできることと、トラブルが起きた時に適切な処理ができることを重視していますが、人によっては、好みが異なるでしょう。
仕事が「できる」ようになるためには、仕事が分かることが必要で、そのためには、自分がした仕事が、社内外の誰にどのような影響を与えるかを理解しなければならないと思います。その意味で、早くから仕事の全体像を見ることができる中小企業に、成長の場としての可能性を感じています。
仕事が分かり、できるようになるきっかけが多い職場が少しでも増えることが僕の希望ですが、自分の本が、誰かにとってそんなきっかけの一つになるとうれしいですね。
インタビューを終えて
神吉氏と話してみて感じたのは、中小企業にも、大企業にもどちらにもメリットはあるということだ。そのうえで、自分自身が「どのような姿勢で会社と向き合うべきか」を考えなくては、会社規模に関係なく幸せにはなれないだろう。
会社や上司に不平不満を言ったりするのではなく、まずは自分自身で改善できるように試みて、それでもダメなら「転職」すればいい。自分に合う会社を探すのではなく、会社に必要とされる人材になることが、会社規模にかかわらず幸せな社会人生活を送れるポイントではないだろうか?
大企業、中小企業どちらで働く? 「小さな会社でぼくは育つ」著者が語る、それぞれの“幸せ論”
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神吉 直人(かんき なおと) profile
「小さな会社でぼくは育つ」(ミシマ社×インプレス「しごとのわ」レーベル)著者
1978年姫路市生まれ。京都大学経済学研究科修了。博士(経済学)。2014年より、追手門学院大学経営学部准教授。趣味は合気道。
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