
第一線で活躍するヒーローたちの「仕事」「挑戦」への思いをつづる
Vol.126「地球の広報」/旅人/エッセイスト たかのてるこ
旅は生きる実感をくれる
Heroes File Vol.126
掲載日:2014/12/11

ベストセラー「ガンジス河でバタフライ」で知られる、たかのてるこさん。会社員の傍ら世界中を旅し、紀行エッセーを執筆してきたが、2011年に独立。現在は日本と世界の魅力を伝える「地球の広報」として幅広く活躍する。世界六十数カ国の旅や18年間の会社員生活から得たものは何だったのか。今のたかのさんに至るまでの道のりを聞いた。
Profile
1971年大阪府生まれ。日本大学芸術学部卒業後、東映(株)に入社。2000年出版の『ガンジス河でバタフライ』がベストセラーに。11年に東映を退社。これまで世界六十数カ国を旅し、「地球の広報」として幅広く活躍中。著書に『ジプシーにようこそ! 旅バカOL、会社卒業を決めた旅』など、最新刊は『ど・スピリチュアル日本旅』。
自分を変えた初のアジア一人旅
はじけんばかりの笑顔と豪快な笑い声。これまでに旅した国は60カ国以上に上るという。そのほとんどが行き当たりばったりの一人旅。
各地で出会った人たちとの笑いと涙のエピソードをつづったエッセーも人気があり、中でも15万部超のベストセラー『ガンジス河でバタフライ』は「旅のバイブル」として多くの人に支持されている。
幼い頃から旅人に憧れていた。「『桃太郎』『一寸法師』『ガリバー旅行記』など、どの物語も主人公は一人旅で出会いと別れを経験し、成長して帰ってくる。私も一人旅をしたら、小心者の自分を変えられるんじゃないかと思ったんです」
初めての海外一人旅は20歳の時。香港、シンガポールから中国、マレーシアを回った。国によって言葉も食べ物も文化も違う。それが新鮮だった。
「どの国も個性豊かで、地球はテーマパークの集合体なんだと感動。最初は分からなかった電車の乗り方も屋台での注文もだんだんできるようになり、それがうれしくて。生きている実感を得たんです」
それまでは、自分を「やりたいこともないダメな人間だ」と否定的にとらえていた。だが旅で変わった。胸を張って「これが好き!」と言える、「旅」というライフワークが見つかったことが大きな自信となった。
「働くようになっても旅だけは続けたい、死ぬまでに200カ国を旅したいと思いました」
自分らしく働くため旅番組を売り込んだ

大学卒業後は旅か映画の仕事に関わりたいと考え、50社以上の会社を受け、唯一合格した東映へ入社。映画の仕事に就けると思いきや、配属はイベントの企画制作で、『美少女戦士セーラームーン』などのキャラクターショーの担当となった。
「やりたい仕事と違い最初は途方に暮れました。でも上司に『今の部署で頑張っていない人はどこも欲しがらない』と言われ、とにかく目の前の業務に真摯(しんし)に取り組んだ。そうしたら運よく1年後にテレビ番組制作へ異動となったんです」
番組制作は楽しかったがとにかく忙しく、休む暇がない。「旅もできず、私は何のために働いているんだろう」と悩む日々。そんな時、友人の作家よしもとばななさんに「動くてるちゃんを映像にすれば。天職につながると思うよ」と言われた。
早速、有休を取ってインドを旅し、その映像を編集してテレビ局へ売り込んだところ旅番組として放送されることに。以後プライベートの旅映像を局へ持ち込み、数年に1度「銀座OL世界をゆく!」というタイトルで放送されるようになった。
「好きな仕事を見つけたことがモチベーションとなり、日々の激務を前向きに乗り越えられるようになりました」
ロマの人々が、自分らしく生きる覚悟をくれた
29歳の時、インド一人旅体験をつづった本『ガンジス河でバタフライ』がロングセラーに。
「いつか旅人として独立できたらいいなとは思いつつも、会社を辞めるなんて恐ろしすぎて絶対無理と思っていました」
旅人で食べていけるわけがないと思っていたし、何より会社員という安定、ステータスを失いたくなかった。だから仕事が忙しくて数年に1度しか旅に出られない状況に悶々(もんもん)としながらも、会社を辞めずに旅のエッセー本を書くという、二足のわらじ生活を続けた。
そんなたかのさんが会社を退職しようと決意をしたのは、2011年3月、東日本大震災がきっかけだった。「いつどうなるか分からないという無常を痛感したからです」
更に、旅で出会ったロマの人々の影響も大きいという。
「彼らは過去や未来を心配せず、今に全力投球して生きている。私もこんな風に生きたい! と心底思いました。結局、自らが自分を縛っていた。そこには、会社を辞めたら何もない人間になってしまうのではないかという恐怖心があったんです」
では、本当に怖いことは何なのか。本気で考えた末、「自分らしく生きられないまま死ぬことではないか」と気づき、「旅人として生きよう」と覚悟した。それは内なる恐怖心を克服した瞬間でもあった。
現在は「地球の広報」、旅人、エッセイストとして、執筆をはじめラジオやテレビ、講演、大学講師などで幅広く活躍する。
「この世の仕事ってすべてサービス業だと思うんです。自分の特長や特技を使って人にどんなサービスがしたいかを考えれば、おのずと天職にたどり着くんじゃないかと。今の私の肩書は『地球の広報』。世界を旅し、出会った人や国の魅力、地球の豊かさを人に伝えることだと思っています」
人間はみな同じそう思って接する

旅は自分を映し出す鏡。出会いによって自分を見つめることができ、「自分らしさ」は他者との出会いを通じて発見できる。だからこそ多くの人に、一人旅を勧めたいという。
そんなたかのさんが、ディープな国内紀行本『ど・スピリチュアル日本旅』を出版。「日本に、こんなに面白くて、好きなことをしながら楽しく生きている人がいるなんて、目からウロコが落ちまくりで。本当にやりたいことが、人の喜びにもつながることなら、お金は後からついてくるんだなあと」
この本には出会った人たちの飛び切りの笑顔が満載だ。「初対面の人にはまず自分から先に心を開きます。生きている間に会えた人はみんな同世代だと思っていますし、同じ人間だと思って接すると、キラキラの笑顔が返ってくるんです」
ヒーローへの3つの質問

現在の仕事についていなければ、どんな仕事についていたでしょうか?
恐らくずっと会社員を続けていたと思いますが……、今となっては会社を辞めなかった自分が想像できないので、「地球の広報」以外は考えられないです。
人生に影響を与えた本は何ですか?
よしもとばななさんの小説「キッチン」。高校生の時に読んで衝撃を受けました。優しさに満ちていて、人のぬくもりがじんわりと伝わってきて……。よしもとさんの本はどれもそうですが、自分では触れることができない、心の奥底の深いところが癒やされるんです。読む度にヒーラー(癒やしの人)だなぁとつくづく思います。
あなたの「勝負●●」は何ですか?
外に出る時は気分をアップさせたいのでカラフルな服を着ます。会社員時代は「会社員たるもの、なるべく会社員っぽくしなければ」と思って自分の気持ちを抑え、おとなしめの色の服を選んでいましたが、独立後、それまでの服は全部、人にあげたりして処分しちゃいましたね。
Infomation
何度読んでも抱腹絶倒、元気の出る旅エッセー
たかのさん著「ど・スピリチュアル日本旅」好評発売中!
世界の六十数カ国を旅してきたたかのさんが、初めてディープな日本旅に挑んだ。高野山、北海道、沖縄など日本の聖地を訪ね歩き、確信したのは「日本は世界一、スピリチュアルな国だ」ということ。「自然を愛(め)でて、土地の神を拝み、祖先を祀(まつ)り、郷土愛に満ちた濃ゆ~いキャラの人たちと出会い、酒を酌み交わすうち、今や日本にも首ったけです」。読むだけで心身ともにリフレッシュ&パワーチャージできるエッセー。自分だけの旅がしたくなる一冊だ。
発行元:幻冬舎
定価:1400円(税別)