
【第2回】「主張が弱すぎる!」社内SEを目指す金融系SEの経歴書を斬る!

【今回の転職希望者】
坂上智樹さん(仮名):29歳
大学院理工学部修了。携帯電話やモバイル機器のアンテナ回路の設計を学ぶも、ソフトウェアに興味をひかれ、大手SI企業に入社(2007年~2012年) 。
【現在】
大手SI企業の金融系システム開発部門で、主に証券会社向けのシステム開発に携わる。直近では要件定義やサブリーダーとして進捗管理などのマネジメント業務も経験。
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【転職希望先】
銀行、証券、生損保、クレジット会社などの社内システム企画部門。
今回の転職希望者:
大手ベンダのシステム開発 → ユーザー企業(金融系)の社内SE
坂上智樹(仮名)さんは、大学院修了後、2007年に大手SI企業に就職したエンジニアだ。
新卒として金融システム開発部門に配属後、これまでに証券会社向けの取引システムに関するプロジェクトに関わってきた。運用・保守から設計開発まで、一連の流れを経験している。
現在携わっているプロジェクトでは、要件定義フェイズから担当している他、サブリーダーとして進捗管理を行うなど、マネジメント業務も手掛けている。
今度は、ユーザー企業に社内SEとして転職して、システム開発に携わりたい――これが坂上さんの転職動機である。
社内SEになって、今までの経験や知識をどう生かせるか? 書類選考を通るアピールがしっかり書いてあるだろうか?
● 書類選考通過に必要な3つの要素
“書類選考の通過に必要なのは、 「動機」「能力」「人柄」の3要素である”――。IT企業での人事経験もあるベテラン・キャリアカウンセラー 髭彰(ひげ あきら)さんが、「書類選考通過に必要な3つの要素」という独自メソッドで、エンジニアの職務経歴書を徹底指導する。

書類選考通過に必要な3つの要素
なお、このメソッドは面接時にも応用が可能なので、
面接にまで進んでいるエンジニアも、ぜひ参考にしていただきたい。
動機: 「特性・強みを志望動機にリンクさせる」ロジックが必要!
髭: 坂上さんの経歴書を拝見した感想は「主張力が弱い」「具体性がない」ということです。
坂上さんの職務要約(Before)
金融機関向け取引システム開発を5年経験。提案・要件定義から保守フェイズまでを経験し、開発やシステムの維持保守に必要なプロセスを身に付けました。
現在は、詳細設計およびシステム構築フェイズにてチームのサブリーダーを担当しており、品質・納期・コストを意識したマネジメントを行っております。
まずは動機を見ていきますが、坂上さんの職務経歴書からは、動機を表す“意欲”も“目的”も、まったく主張されていませんよね。転職動機は、どのようなものですか?

坂上: これまでの仕事では、お客さんの業務を知る機会が少なく、「先方が望むシステムをきちんと提案できていないのでは?」という疑問を持っていました。それならば、一度ユーザー側の立場になり、業務に深く踏み込んで、業務もシステムも分かるようになりたいと思ったのです。
髭: なるほど。社内SEを希望している、ということですね。その“意欲”は、書類上でもしっかり言葉にしなければ、伝わりません。控え目なことは美徳ですが、こと転職活動では「アピール不足」という欠点になってしまいます。
さらに、自分の特性・長所と希望する職種はリンクしている必要があります。「自分にはこんな長所がある。だから、この職種に向いている」というロジックです。社内SEになるために、坂上さんの特性や長所はどう生かせますか。
坂上: 私は、人の意見をよく聞くタイプなので、業務の現場の意見を聞き、まとめながら、システム要件に落とし込んでいく部分に、自分の強みを生かせるのではないかと思います。
髭: コンサルティング志向ですね。それは確かに良いポイントです。
経験を挙げて、強みを強調する
坂上さんの自己PR
・顧客満足度の高いシステム提案力
顧客のニーズを把握し、関係者を巻き込んで満足度の高いシステムを提案することに努めてきました。
顧客の要望を的確に把握するために顧客へのヒアリングを何度も行い、理解しやすいビジュアルや文章の資料を作成し説明してきました。また社内外の関係者との会議や調整をまとめ、協力しながら提案することで、セキュリティ関連の案件を受注できました。

キャリアカウンセラー 髭彰(ひげ あきら)さん
髭: それから「提案力」をアピールしていますが、これだと「いろいろな企業に提案を行うシステム開発会社の方が向いているのでは?」と判断される可能性があります。そのため、単に「提案力」と書くのではなく、プラスアルファが必要です。
質問しますが、コンサルタントは、どうして優れた課題解決の提案ができると思いますか? 課題解決の提案に大切なものは何でしょうか?
坂上: ……何でしょうか……分かりません。
髭: 彼らは皆「システムとはこうあるべきだ」という理想形を持っているからです。言い換えれば、未来から現在を見ている。だからこそ、そこにたどり着くまでの課題を発見できるし、解決策を提案できるのです。これまでに、そういった課題解決の経験はありますか?
坂上: 何かあったかもしれませんが、すぐには思い出せません。
髭: もう一度、自分の経験を振り返り、課題解決の経験を見つけておいてください。そして書く際には、採用担当者に「業務を深堀して、課題を見極める能力がある」と思ってもらえるよう、少しオーバーに書くくらいがちょうどよいでしょう。
経歴書で打ち出す強みは、自分が目指しているキャリアプランと一致していないとおかしいのです。そういう目線で、自己PRを見直してみると、主張の強いメッセージを、転職先の企業にしっかりと伝えることができます。「だからこそ、転職して活躍したい!」といえる強みを、しっかりアピールしてください。

「3つの要素」に従って、書類を1つ1つ詳細に見ていく
能力: 「具体的な“実績”がすべてを語る」と心得るべし!

髭: 最初に坂上さんの経歴書には「具体性がない」と述べましたが、この職務経歴書からは、あなたの具体的な能力が把握できません。能力は、「何を」「どれだけ」経験し、成長を経てどのような“知識”を得たか、そしてどのような“実績”を残したか。この2点をもって示します。実績は数字で表せるのが一番ですが、現時点での数量的な情報は、プロジェクトの期間だけですね。
坂上: はい。
髭: 期間や人月である程度の規模は分かりますが、実績を数量的に表現するのは難しいかもしれません。では、どうするか。職務経歴の中の、一番最近のプロジェクトについて見ていきましょう。このプロジェクトで「成長できた」と思える具体的なエピソードがあれば聞かせてください。
坂上: このプロジェクトでは、お客様への提案段階から関わって、基本設計までを手掛けました。サブリーダーとして、チームメンバーの進捗管理なども担当しています。
髭: それだけでは、成長したポイントも分からなければ、具体的な“実績”も見えてきませんね。マネジメントをしていたそうですが、どういう苦労をして、どう解決しましたか?
坂上: 苦労という点では、もともと予定していた人数で作業の分担を決めた後に、諸事情で人数が減りました。そこで、限られたメンバーの中で、作業をどう割り振り直すかに苦心しました。
髭: 苦労しながら「リソースの配分」をしたわけですね。そのときの各メンバーへの割り振りは、何を判断基準にしましたか?
坂上: それぞれのメンバーの実力や経験に合わせて、負荷が大きくなり過ぎないようにしました。
髭: メンバーの能力は、どうやって見極めたのでしょうか。
坂上: メンバーとコミュニケーションを取り、過去にどのようなプロジェクトを経験したかや、得意な分野を判断して、現状の作業量を考慮しながら判断しました。
● “実績”欄を自分で作り、アピールする!
髭: “実績”が見えてきましたね。坂上さんは、プロジェクトの人数が減ってしまった、という事態のなかでも、「サブリーダーとしてメンバーとコミュニケーションを取り、スキルチェックを行って、リソースの配分を行い、プロジェクトを成功に導いた」ということが、成長の軌跡、そして“実績”なわけです。これは、必ず職歴書に書いてください。
坂上: はい。書く欄が特にないのですが、どこに書けばよいでしょう?
髭: 自分で、新たに“実績”という欄を追加するのです。そこに、「納期を達成した」「リソース配分をうまく調整した」など、数字にならないものも含めて書いておきます。もちろん数字があるに越したことはありません。
● 「手伝い」なのか「主担当」なのかを明記する
髭: どのような形でプロジェクトに携わったかも大切です。 「○○に携わった」と書かれていても、人事担当者には「ちょっと手が足りなくて、お手伝いに行っただけじゃないの?」と思われてしまうかもしれません。サブリーダーをしていたプロジェクトでは、どのくらい坂上さんに任されていたのですか?
坂上: ほとんど、私に任されていました。
髭: では「主担当として」という一言を加えるべきでしょう。進捗管理では、何かテクニックを得ましたか?
坂上: 「山積み表」というテクニックを覚えました。作業ベースでどのぐらいの日数がかかるかを書き出し、合計値が、その月にかかる工数を超える場合には、人員調整を行うという手法です。ローカルな呼称かもしれません。
髭: それは“知識”としてアピールできるので、書いた方がいいですね。
坂上: 何と書けばいいでしょうか?
髭: 「進捗管理(山積み表)」でOKです。相手の目に留まれば、必ず「山積み表とは何ですか?」と聞いてきますから。
● 困難な局面をどう乗り越え“成長”したかは、「能力」をアピールする好材料
髭: マネジメントをする前に、金融系システムの運用を経験していますね。このプロジェクトで、何か特筆すべきことがありますか?
坂上: 初めて保守や運用フェイズを担当したプロジェクトで、システムの不具合に関する情報を収集する作業を行っていました。、「絶対に止めてはいけない」システムであるにも関わらず調査漏れがあり、危うくシステム停止に陥りそうになりました。
髭: 具体的には、どのようなことがあったのですか?
坂上: 「OSがいきなり止まってしまう」という不具合の対策を見逃していました。当時、いろいろな関係者からおしかりを受けました。その時、「何事も気を抜いてはいけない」ということを肌身で痛感し、以降は細かなチェックを怠らないようにしています。
髭: そういった、細かなチェックを継続していくことは苦ではないですか?
坂上: 特に苦ではないです。辛抱強くできる方だと思います。
髭: これは、「忍耐力」「集中力」という能力のアピールになりますね。長期的な案件に生かせる、大きな強みです。またこうした経験をしたこと自体、若いエンジニアにとって成長の証となります。これも書いておきましょう。
● 技術力は具体名称で!
髭: その他、坂上さんの履歴書でごっそり抜けおちているのが、「具体的な技術名称」です。
そのため、職務経歴の内容に具体性がなく、人事担当者にとってアピールできない職務経歴書になってしまっています。ハードウェア、ソフトウェアの名称がなければ、どれだけの技術を持っているのかが把握できません。具体的な製品名を書けない理由はありますか?
坂上: いえ、ただ長くなると思ったので……。
髭: 欄の幅を変えても構いません。あるいは、専門家が見れば分かるような略称でもいいので、具体的な技術・製品名を記載しましょう。エンジニアにとってのアピールポイントは「どんな技術の経験があるか」です。そこが書いていないのでは、アピールになりません。おそらく最初は人事担当が書類を見ますが、選考過程で技術知識のある人間も見るはずですから。
坂上: 分かりました。
髭: “ミドルウェアの設計”と書いてありますが、具体的にはどのようなことをやったのでしょうか?
坂上: 定数設計を行いました。ミドルウェアのパラメーターを1つずつ洗い出して、お客様のニーズに合致した値を設定していく作業です。
髭: DBもネットワーク管理ソフトも、言ってみれば「ミドルウェア」です。具体的にどんなミドルウェアですか?
坂上: Webアプリケーションサーバです。
髭: それならば、製品名を書いた方が早いですね。
人柄:短所は長所に変えてアピールせよ

髭: 事前に才能タイプ診断を受けてもらったところ「協調タイプ」という結果でしたが、当たっていると自分で思いますか?
坂上: あまり自分の意見を言わないというところは、当たっていると思います。
髭: そのまま書くと短所になってしまいますね。「協調」タイプの人は、早い段階では自分の意見を言わず、全体が見えないと動かない傾向にあります。
しかし、この特性は言いかえれば、「総合的にものを見ている」ということです。これは、「長期的あるいは戦略的な仕事をするのに向いている」というアピールポイントになります。
坂上さんが望んでいるシステム企画の立場にこそ、実はこういう能力が必要です。モジュールしか見ない人では、システム全体を企画することはできませんから。
「総合的な判断力がある」と自己PRに入れておくと、重みが出ますよ。経歴書にあるマネジメントの部分も、プロジェクトを総合的に判断できるからこそ成果を出せている、としっかりアピールしましょう。
● 「コミュニケーション能力が高い」では何も伝わらない!
髭: 「自己PR」に“コミュニケーションを重視している”と書いていますが、転職希望者は皆「コミュニケーションが取れる」「コミュニケーション能力が高い」と書きます。これだけでは、まったく他の人と差別化できません。坂上さんのコミュニケーション力で、他の人より優れた部分はありますか?
坂上: あえて言うなら、相手の言わんとすることを引き出すのが得意です。
髭: そのためのポイントは、何かつかんでいますか? 例えば、「この人はまだ言いたいことをきっちり言い切っていない」と思う人をどのように見分けていますか?
坂上: 自然にやっているので“これ”というものはありません。メンバーが年上ばかりなので、あまり無理に聞き出すのが難しく、困難を感じる場合には、上司であるリーダーに判断をあおぎます。
髭: 「自分で伝えられない時は上司に頼る」というだけでは、主張力の弱さを示してしまいますね。経歴書に書く際は、「言いたいことを引き出すことが得意」であることを強調し、例えば最初に出てきたリソースの配分の話に絡めて、マネジメントの際にこの強みが生きている、とアピールするのがいいかもしれませんね。
面接で「弱点は何ですか」と聞かれたときだけ「自分の限界を認識していて、そういうときは上司にエスカレーションする判断力を持っている」と、短所を長所に変えて答えるといいでしょう。
坂上: はい(苦笑)。ありがとうございました。
髭さんの履歴書添削・まとめ
● PRが弱くインパクトがない「協調派」の経歴書
才能タイプが「協調タイプ」の人は、自分の強みを低く見てしまう傾向があります。坂上さんも、経歴書を書きながら「何をアピールしたら良いか、イマイチはっきりしなかった」と語っていました。その結果、年齢の割には多くの経験を持ち、早く成長しているにもかかわらず、単なる経験を羅列した経歴書になってしまっていました。
実際に会って話をしてみると、坂上さんは思考力や判断力が高く、将来のキャリアプランも明確に持っていました。だからこそ、早く成長でき、将来において企業経営に影響するIT部門を支える重要職務に就きたいと考えられていることが読み取れました。そこで、「成果・成長欄」を設けて自分の成長を具体的に書くように指導し、経歴の中にも数量や成果を記載するようアドバイスしました。
また、自己PRが将来のキャリアプランにつながるものでなければ、採用側へのインパクトが弱くなることを指摘し、「経験/実績」の具体的表現や成長力の基盤となる能力や問題意識の高さをうかがわせる内容を記入するよう、アドバイスしました。
より良い経歴書を作るポイント
● 数値を使い、実績や成果に「具体性」を持たせる
職務経歴をただ並べるだけでは、アピールするものがない履歴書になってしまう。それぞれのプロジェクトを通じて、自身の成長の軌跡が見えることが重要。経歴一覧の表に“成果”や“実績”を記載する欄を追加するとよい。人事担当者は、まずそこを見るということを覚えておくといいだろう。
● 技術は、具体的な名称で!
何をどれだけ経験したのかを上手に伝えるには、漠然と「OS」「ミドルウェア」と書いても、何も伝わらないと思った方がいい。具体的な製品名を記載するのが基本だ。どの程度携わったかを知ってもらうため「主担当として」のような度合いを示す表記も忘れない。長い場合は、技術者が分かるような略称を使ってもいい。
● 短所は長所に変えてアピールする
あえて短所を書く必要はない。短所があっても、それを長所に変えてアピールすること。今回のケースでは、「自分の意見を言わない」という協調タイプの短所を、「総合的判断能力に優れる」と長所に置き換えることで、長期的・戦略的な仕事に向くことをアピールするようにアドバイスした。
● 自己PRは自分のキャリアプランと一致させる
自己PRは、単に自分の長所を並べるのではなく、「キャリアプランと一致させる」こと。今回の坂上さんのケースでは、ユーザー企業のシステム企画を志望していたので、「課題解決力」を打ち出すようにアドバイスしたが、もし、システム開発会社を志望する場合には、顧客への提案力を打ち出す方がいい。
<髭彰さんプロフィール>
CAP総研代表取締役。伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)にて、技術教育課長、QC推進事務局長、人材開発センター長を歴任。2001年にCAP総研を設立し、独自開発の行動変革プロセス・メソッドに基づく管理職研修の企画および講師、キャリア・カウンセリング、人材採用コンサルティングなど、幅広い分野で活躍している。
※企画:アイティメディア営業企画 制作:@IT自分戦略研究所 編集部
※JOB@ITの記事(2012年9月30日)に再編集を加えて掲載しています。
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