仕事の楽しさとは裏腹に小さな会社で働くことに息が詰まっていく……
大学4年生まで大学院に進学するつもりだったT岡さん。就職するつもりは無かったそうですが、卒業直前に方向転換し、出版業界を志望します。しかし、すでに多くの企業が募集を終えたタイミング。困っていたところ、とある交流会で雑誌やWEB媒体を手掛ける編集プロダクションの社長と知り合い、「来春からうちにこない?」と声を掛けられ、「これはチャンス」と思い就職を決意したそう。
「社員10名ほどの小さな会社だったので、人手が足りず何でも一人でやらなくてはいけませんでした。私は会社にとって初めての新卒で、中途ばかりの会社で親切丁寧に仕事を教えてくれる先輩もいません。社会人としてのマナーをはじめ、先輩たちに怒られながら仕事を覚える毎日でしたね。きつかったですが、半人前だって言われているうちは辞めたくない。意地でも喰らいついていこうと日々奮起していました。毎日朝から夜遅くまで働いていましたが、社長の人脈で、普通では会えないような作家や著名人と一緒に仕事ができる機会にも恵まれ、充実していました」
新卒入社から3年間はがむしゃらに仕事をしたT岡さん。3年目になると、T岡さんの企画がバンバン当たり、仕事にも自信が持てるようになったそう。ですが、業務に慣れてくると会社の体制に不満を抱くようになります。
「仕事に自信がついてくると、『もっとこうしたい』と自分の意見が出てくるようになりました。でも、小さな会社なのでプレイヤー気質の社長の現場に対する発言権が強く、現場に判断を任せてくれませんでした。また、10人しかいない会社ということもあって、“編集の仕事だけ”という訳ではなく、事務作業や経理、広報なども皆で分担していました。社員一人が負担する仕事の幅がとても広いのですが、人にはそれぞれ適性がありますよね。だから、『適性がない人が適性のない仕事』を続けることで、仕事が回らなくなる状況がよくありました。大きな会社であれば得意なことを任せればいいのですが、小さな会社ではそれができないので、組織として限界があるなと感じるようになりました」
小さな社内での評価でなく、自分の適正な“価値”を転職によって知りたい
いったん芽生えたモヤモヤはその後も消えることなく、日増しに大きくなってきたそう。更に、自分の性格的なことからも小さな会社で働くストレスは募っていきます。
「飽きっぽいところがあり、ずっと同じ環境下で仕事をすることにも嫌気が差してきていました。10人前後の規模の会社で3年働くということは、例えるなら高校3年間ずっと同じクラスにいるようなものですよね。人間関係も煮詰まっていきますし、仕事も楽しいとは言え似たり寄ったりで……。だからと言って、異動もないので、すっかり飽きてしまい、辞めるしかないのかなと」
また、自身の評価が適正なのか確認したくなったとT岡さんは言います。
「給料は毎年若干上がってはいたのですが、その人事評価が本当に自分の価値なのか疑問がありました。小さい会社で、社長の一声で大きく増減が決まってしまうものなので。そこで、転職活動をしてみることで、自分の市場価値がどれだけあるのかを確かめたくなってきたんです。自分はどんな会社から必要とされる人材なのか。いくら程の給料をもらえる価値があるのか……。あわよくば、年収を上げられたらという思いもありました」
元々、T岡さんには「この会社しか知らなくて、この先大丈夫なのだろうか」という不安もあったそうです。
「その職場では、一応10時出社と定められていたんですが夜遅くまで仕事をしているぶん朝がルーズになりがちで。それは私にとってはやりやすかったんですけど、社会人一年目からそんなゆるい環境に慣れてしまっていいのかと(笑)。もうちょっとルールがしっかりしている会社で働くことを経験したほうがいいんじゃないかとは思ってましたね」
こうしたさまざまな要因が重なり、T岡さんは人生初の転職を決意します。