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大企業、中小企業どちらで働く? 「小さな会社でぼくは育つ」著者・神吉直人氏が語る、それぞれの“幸せ論” 大企業、中小企業どちらで働く? 「小さな会社でぼくは育つ」著者・神吉直人氏が語る、それぞれの“幸せ論”

中小企業だからこそ幸せになれる働き方、魅力・メリットとは?

【神吉直人氏インタビュー 第1回】

「就職するなら大企業がいい!」そんな価値観に一石を投じた著書「小さな会社でぼくは育つ」を出版した神吉直人氏。

追手門学院大学で経営組織論を研究する神吉氏は、著書の中で「中小企業だからこその働き方やメリット」を提唱しています。ここでは、神吉氏が著書に込めた想いや「中小企業で働くことで得られる幸せ」とは何なのかについて伺いました。

「大企業に勤めることだけが正解」ではないというメッセージを発信するために執筆

「小さな会社でぼくは育つ」著者・神吉直人氏
――どのような経緯で「小さな会社でぼくは育つ」を書かれたのですか?

神吉直人(以下、神吉):友人でもある京都のミシマ社(出版社)の三島社長から、「中小企業で働く(働きたい)若い人に、寄り添うようなビジネス書を作りたいので書いてくれませんか」というオファーがありました。

ですが、お話をもらった時、一度は断ろうと思いました。大学で担当している経営組織論と経営倫理の授業で中小企業に触れることはありますが、中小企業の研究を専門としているわけではありませんので。

――なぜ、執筆をする気になったのでしょうか?

神吉:世間では「大企業=勝ち組」で、「みんなが知っている有名企業で働き、高給をもらって都心のオフィスビルを闊歩(かっぽ)する」のが成功者というイメージがあるかもしれません。

しかし、私の周りには「小さな会社で生き生きと働く」若い友人たちがいます。また、個人経営の店など、規模に関係なく、丁寧な仕事をしている会社を応援したいとも常々考えています。

ですから、「大企業に勤めることだけが正解」ではないことや、「中小企業だからこそ得られる幸せ」もあることを伝えられるならと思い、引き受けることにしました。

また、日頃考えていることとの関連としては、大企業でもですが、中小企業では「自分から動く姿勢」が必要です。そこで、「会社におけるマインドセットや、働き方のスタイルについて考えてみましょう」というメッセージを織り込むことに努めました。

――大企業と中小企業のどちらにも良さがあるということですね?

神吉:はい。決して大企業に対するアンチや中小企業礼賛は意図していません。勤め先の企業規模にも人によって「合う・合わない」があると思うのです。

中小企業で働けば若くても「スキルアップ」できるチャンスがある

――まず、中小企業と大企業の定義についてお聞きしたいのですが。

神吉:従業員が「製造業で300人以下、卸売業とサービス業なら100人以下、小売業なら50人以下」の企業が、中小企業と定められています。これらはあくまで上限なので、実際はもっと少ない人数で仕事をしているところがたくさんあります。国内企業の99.7%(※)は中小企業です。大企業には、メディアを通じて社名を見聞きする機会があるところも多いですが、名の通ったもの以外にも会社はたくさんあります。
(※)2016年版「中小企業白書概要」より(中小企業庁調査室)

――人数が少ないと仕事が大変なのでは?

神吉:相対的に一人に掛かる負担は大きいかもしれません。執筆のための取材では、「やることが盛りだくさんで大変」というネガティブな発言もありました。

ですが、これは中小企業のメリットに通じることでもあり、「いろいろ経験できるのが楽しい」というポジティブな意見も複数の方から伺っています。

――いろいろ経験できると、どんなメリットがあるのでしょうか?

神吉:「いろいろ」もいろいろですが(笑)、例えば、一つの業務を最初から最後まで任されれば、それぞれの仕事の意味やつながりについて、考えざるを得なくなります。話を単純化してしまいますが、仕事の全貌が分かるようになれば、できる仕事の幅が広がり、より責任のある大きい仕事にチャレンジすることができるかもしれません。

もちろん、人がいないから「やらざるを得ない」という話でもあります。とはいえ、この経験を若い時からできるのは、中小企業だからこそ得られる最大のメリットと言えるでしょう。大企業の場合は役割分担が明確で、担当以外の仕事を任されることは少ないでしょう。ましてや、責任ある業務を任せられるのは、それなりに経験を積んでからのことです。

つまり、若いうちからスキルアップにつながる経験を得たいなら「中小企業」という選択もあるということです。

仕事には「やりがい」よりも「楽しさが」大切

中小企業で働くメリットを語る神吉直人氏
――そのほかのメリットは何でしょうか?

神吉:相対的な話ですが、かかわる人の少なさの利点もありますね。BtoBでもBtoCでも、業務の幅が広がるとお客や関連会社の人の顔も具体的に見えてきますので、やりがいを感じられると思います。

ただ、やりがいは必ずしも皆が求めるべきことではないとも考えています。フリースケジュールという制度で有名になったパプアニューギニア海産(大阪府茨木市)の武藤北斗さんと大学のイベントで話をした時にも、「そもそも仕事にやりがいなんてないよね」という話題になったことがあります。

最初は仕方なく、中にはいやいや働く人もいると思います。勤労は国民の義務ですし。でも、働いているうちに、自分がやったことに対してポジティブなレスポンスが返ってくるようになれば、仕方なくやっていた仕事でも、楽しくなってくる瞬間があります。その楽しさは、やりがいと呼ぶには大げさな、ささいなことかもしれません。だけど、その小さな楽しさは、大事に扱うべきものだと思います。

――「やりがい」よりも「楽しさ」が大事と?

神吉:そうですね。「やりがいがなきゃいけない」とか「仕事に自分らしさを」ということを必須の条件にしていたら、特に経験の少ない若い人は、しんどいだろうなと思います。やりがいを感じられないと思ってしまえば、傍目には良い仕事でも、それを否定してしまうかもしれない。やりがいというと話が大きくなりがちなので、ささいな楽しさくらいでちょうど良い。

ただ、ほとんどの仕事の楽しさも時間的には遅れてやって来るものなので、最初は楽しくなくてもちゃんと仕事に向き合うべきだと思います。余談ですが、こういう発言は、ブラック企業の登場以降、随分難しくなりましたね。

まずは「当たり前」ができるようになることが重要

――話を戻しますと、中小企業で働けば誰でもスキルアップできるのでしょうか?

神吉:まさか、そんなはずはありません。意欲を持たず、漠然と働いてしまう人は、どこに行ってもスキルアップできるチャンスを生かせないでしょう。そもそも、いくら人手が足りない中小企業でも、ぼんやりしている人には機会は回ってこないはずです。

ですから、漠然と与えられるのを待つのではなく、自ら必要なことを見定めて仕事を学び、戦力として認められるよう努力することが、スキルアップの機会を得るためには必要です。

――それは大変そうですね。

神吉:そうかもしれませんし、決して大変なことではないとも思います。

大企業に勤める私の先輩の言葉を借りれば「当たり前に、当たり前のことをする」のが「仕事ができる」人のイメージだと言います。「当たり前」というのは、スポーツでいえば「基礎」であると同時に「奥義」でもあります。とすれば……やっぱり難しいことかもしれませんね。

――具体的な「当たり前」にはどのようなものがありますか?

神吉:そうですね……。特に新人など若い人であれば、「できるはずのことで、失敗しない」ことを心掛けたい。例えば「忘れてしまう」ことは問題ですが、これはメモを取って、それを確認する習慣があれば解決できます。ほかにも、「メールが来たらちゃんと返信する」など、当たり前のことは、山のようにありますね。

ところで、「当たり前」については、当たり前の基準が人によって違うという、途方もなくどうしようもない論点が立ちはだかってきます。この話題の難しいところは、話せば話すほど、考えれば考えるほど、袋小路に入っていくことです。シンプルに行動していきましょう。「では、シンプルとは?」なんて考えずに(笑)。

転職を考えるべきタイミングとは?

中小企業から転職するタイミングについて語る神吉直人氏
――つまり「当たり前」のことをして認められ、責任ある仕事をして「スキルアップ」するのが、著書にあるような「小さな会社での育ち方」ということですね。
では「これ以上この会社で成長できない」というタイミングは来るのでしょうか?

神吉:そのように感じる時は、誰しもあると思います。例えば、新しく覚えることがなくなるくらいに仕事を熟知したら、成長できないと感じるかもしれません。ですが、それがその人にとって、本当の成長の限界なのかどうかは分かりません。

知人に聞いた話ですが、先代から引き継いだメニューを作り続けている洋食屋のシェフは、「同じ味ばかり作っていて飽きないの?」という問いに対して、「使う素材はいつも違うからね。肉も野菜も毎回違うのに、同じ味に仕上げていくのは、ものすごくクリエイティブですよ」と答えたそうです。外から見れば、スキルアップのないただの反復のように見えても、とてつもない創意工夫がそこにある。

だから、「もうこの会社で何もやることはない」と感じても、実は成長につながる改善や工夫の余地はいくらでもあるのかもしれません。そう考えると、スキルアップ目的で転職する必要はないとも言えます。

――では、むやみに転職すべきではないと?

神吉:単純にそうとも限りません。新しい環境に身を置くことで学びのスイッチが入る人もいるし、一つのことを極め続けるのが好きな人もいます。ですから、新しい状況に触れるなど、外的な刺激を求めるなら転職も一つの手だと思います。

月並みですが、中小企業が「合う人」も「合わない人」もいます。合う人であれば中小企業ならではのメリットを生かし、幸せな会社員生活を送れるでしょう。そして、中小企業が合わない人は大企業を目指すなど、より自分に合った環境を求めて転職すればいいのではないでしょうか。

次ページ:中小企業に合わないタイプの場合、転職するしかない? ≫

神吉 直人(かんき なおと) profile

「小さな会社でぼくは育つ」(ミシマ社×インプレス「しごとのわ」レーベル)著者
1978年姫路市生まれ。京都大学経済学研究科修了。博士(経済学)。2014年より、追手門学院大学経営学部准教授。趣味は合気道。

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