
PMへの道を避けたエンジニアの今――ハックを尊ぶ社風が育む働きやすさとは

転職者プロフィール
ピクシブ株式会社
開発マネージャー
小芝敏明さん
(2013年11月入社/33歳)
【仕事内容】
金融機関向け基幹システムの開発、Webアプリケーション開発、プロジェクト推進のファシリテート、広告配信システムのインフラ設計・構築、自社Webサービスの開発・運営などを担当
↓
自社Webサービスの開発リーダー、自社広告配信システムの開発・運営、インフラ設計・構築、会社横断セキュリティチームのリードなどを担当。プロジェクト管理にも携わる
なぜ、彼はPMになったのか
ピクシブ株式会社が運営するイラストの投稿に特化したソーシャル ネットワーキング サービス「pixiv」は、2007年のサービス開始以来、着実に規模を拡大し、2014年7月末現在、会員数1100万人、月間PV数38億、投稿作品総数4700万を誇る一大人気サービスへと成長している。
そのピクシブにおいて開発マネージャーを務める小芝敏明さんは、過去にPM(プロジェクトマネージャー)への道を避けて転職した経験を持つ。そんな彼がピクシブでプロジェクト管理を担当するようになったのは、なぜだろうか。
小芝さんの転職体験は、エンジニアのキャリアパスに必ずと言ってよいほど付いて回るマネジメントという職務について考えるよい機会になるだろう。
PMやオフショア活用に興味はないと転職
中学生時代からコンピューターにハマり、BASICを駆使してプログラミングを楽しんでいたという小芝さんは、奈良の商業高校に入学し、情報処理学科でCOBOLを学んだ。大阪の大学に進み、経営情報学を学びつつC言語なども習得する。ファイル管理などのちょっとしたツールを作って、活用していたという。そんな彼にとって、卒業後はシステム開発会社に就職するのがごく自然な流れだった。
2003年4月、大阪のSIer(システムインテグレーター)に新卒で入社し、主に金融機関の基幹業務システムの開発にたずさわることになる。小芝さんのエンジニアとしてのキャリアは、COBOLプログラマーからスタートした。
当時、メインフレームはレガシーシステムとされており、Webアプリケーションなどのオープン系のシステムが主流だったが、小芝さんにとってそれは重要ではなかった。
「メンテナンスされながらも、20年以上にわたり使われ続けてきたコードに触れるのは、得難い貴重な体験」と、ソースコードのハックに大きな魅力を感じながら業務に取り組んでいた。
しかし、やがて転職を考え始める。それは現場で求められる役割が変わろうとしていたことに起因している。決して開発の仕事そのものがつまらなくなったからではない。
当時は中国などでのオフショア開発が脚光を浴び始めたころであり、大規模プロジェクトでは、開発コスト低減を目的にオフショア開発の活用が盛んに行われるようになっていた。こうした流れに乗り、その企業ではエンジニアに、コーディングよりも、プロジェクトマネジメントやブリッジSEといった立場を求めていた。
「私は、PMやオフショア活用には、全く興味がありませんでした。むしろ技術者として開発に没頭したい気持ちがありました」と、小芝さんは転職に至った理由を簡潔に説明してくれた。
SESから自社サービス開発の道へ
小芝さんが2社目に選んだのは、前職の上司がスピンアウトして東京に設立した小さなシステム開発会社だった。2008年1月のことである。
業務は大手システムインテグレーターに常駐して開発を行うSES(システムエンジニアリングサービス)が中心で、小芝さんがアサインされたプロジェクトは、企業の研究開発部門がエンドユーザー、開発のみならず運用サポートなども幅広く手掛けたという。
SESという業務形態については「人月単位での契約の下で仕事をするのは、常に緊張感があって楽しい」と前向きに捉えていた。
Javaによるアプリケーションの開発、Webサービスの運用やシステム開発プロジェクトでの発注側技術支援など、プログラミングだけにとどまらない幅広い領域で活躍をするうちに、小芝さんは、業務や作業工程をハックし、自身の技術力を駆使して効率化を追求したり、工数を減らしたりすることに喜びを感じ始めていった。
しかし、こうした努力が組織の利益に結びつかないケースもあった。業務の効率化を進めることで、必要とする人月数を減らした場合などが好例だ。クライアントにとっては非常に喜ばしいことだが、エンジニアの派遣を商売とする企業にとっては、一時的に売り上げがマイナスとなる。
もちろん、これは近視眼的な物の見方である。長期的には、それだけ技術力のあるエンジニアが在籍する企業ならば、クライアントに重宝されて将来的に利益につながることもあるだろう。しかし、そうした総合的な判断が下されないことも、現場ではままあるものだ。
良かれと思ってしたことが自社に不利益になる、という不条理な局面に身を置くことが重なり、次第に転職を考えるようになった。
2010年2月、3社目となる転職先に選んだのは、自社サービスを提供する事業会社だった。業務の効率化や工数低減が利益に直結する職場を選んだのは、当然の成り行きといえるだろう。
自社サービスの開発は、小芝さんにとって新たな経験にもつながった。 「エンジニア以外のメンバーとチームを組んで仕事に臨むのは初めての経験でした。営業スタッフやWebディレクターなど、自分にない専門性を持つメンバーと一緒に仕事をすることで、自分の専門性を再認識し、より一層磨き込めました」
ポイントサイトや価格比較サイト、広告配信システムの開発・運営、インフラ構築に力を発揮し、さらにアジャイル開発を促進する横断的な部署の立ち上げにも携わったという。
ユーザーがサービスを熱心に使っている姿に心を打たれた
小芝さんのこれまでの転職を振り返ると、いずれのケースも新しいチャレンジの場に飛び込んだ結果だった。ピクシブへの転職も理由は同じだ。ピクシブの環境が小芝さんにとって、これまでにないチャレンジにあふれたものだったのである。
実は2社目に勤務しているころから、小芝さんはRubyの大規模カンファレンスである「RubyKaigi」の実行委員として、運営に参画していた。同会議のTシャツをデザインしていたメンバーがピクシブ社員で、2013年に2人は2年ぶりの再開を果たした。
そのメンバーを訪ねた際に垣間見たピクシブのエンジニアやデザイナー、ディレクターたちがとても楽しそうに見えた。また、身近な友人たちが熱心にpixivを使用したり、創作活動をしている様子に心を打たれた。
この人たちを支える仕事をしたい――当時、勤めていた企業には何の不満もない、むしろ仕事内容にも待遇にも共に働く仲間にも満足していた。しかし「pixivのユーザーや、そこで働く社員を技術で支えたい」という思いは日に日に大きくなっていった。
「恵まれた環境にいて全てをやりきったわけではないのに、転職をしていいものだろうか」と小芝さんは悩んだ。だが、全力でチャレンジし続けることこそが自分のやるべきことであり、かつての同僚たちへの恩返しになるのではないかと考え、ほどなくして、小芝さんはピクシブへ転職した。
入社後は、自社広告配信システムの開発・運営や、サービス開発におけるプロジェクト管理、全社横断的なセキュリティチームのリードなどを手掛けている。
「これまでの経験を踏まえ、どんな仕事を任されても大丈夫という自信はありました。例えば前職では、AWS(アマゾンウェブサービス)を使い、負荷増大時のオートスケーリングを含めたサーバー構成を設計し、構築していました。その時の経験がトラフィックが膨大な当社のサービスを支えるシステムの構築にも大いに役立ちました」
職位ではなく、役割としてのマネジメント
ところで、「PMに興味がない」と言って1社目を飛び出した小芝さんが、ピクシブではプロジェクト管理も担当している。その点について聞いてみたところ「当社におけるマネジメントは、純粋に技術的な役割です。かつて求められていた『管理』とは大きく異なります」という答えが返ってきた。
多くの企業の場合、マネジメントは役割であると同時に職位でもあるため、管理職と部下という上下関係で仕事が成り立っている。しかし同社では、マネジメントする人=上司ではないそうだ。サービスを伸ばしてユーザーに価値を届けるための役割分担と捉えている。
マネジメント技術に優れた人物がマネジメントを担当し、コーディング技術に優れた人物がプログラミングを担当するが、その両者の間に上下関係があるわけではない。適切な技術を持つ人間が適切なポジションを担当しているにすぎないのだ。
プロジェクトのメンバーがそれぞれの専門性を認め、互いにリスペクトしている。そんな同社の技術本位でフラットな関係を、小芝さんは気に入っている。
ハックを尊ぶ社風が居心地の良さにつながる
小芝さんにとって、ピクシブの最大の魅力は「ハックを尊ぶ社風」だと教えてくれた。
例えばピクシブでは社員の席が全てつながっているユニークな机が使われ、フロア内の机を1つ1つ巡るときに、一筆書きで移動できるように配置されている。社員は自分のスペースに好きなマシンやガジェットなどを飾り、働くパフォーマンスが上がるようにカスタマイズしている。仕事のしやすい環境のために、社内システムを作ったりすることもあるという。
本来の業務である開発プロジェクトの推進についても、独自の工夫が取り入れられている。
社内のフロア中央近辺に、付箋紙がたくさん貼られたホワイドボードが置かれている。これは、小芝さんの発案で設置されたものだという。 「前職でプロジェクト推進のファシリテーターを担当していたこともあり、その知見を生かして、各開発チーム間の情報共有をより効率化できないかと考えました」と、その狙いを説明してくれた。
例えば、新しい機能を追加するとしよう。それについてWeb開発チームは何をするのか、iOSアプリ開発チームはどのようなことをするのかを、それぞれのチームのリーダーが貼り出す。たがいのやろうとしていることが、一目で分かるという仕組みだ。また運営チームは、そこから今後ユーザー行動がどのように変わるかを把握できる。
多くの職場では、こうした新しい仕事の進め方を提案しても、実行に移すまでに時間を要するのが一般的だ。しかし同社のエンジニアたちは、すぐに「やってみよう」と率先して動き出す。「ハックを尊ぶ社風」が、しっかりと根付いていることの証といえるだろう。
ホワイトボードと付箋紙というアナログな手法は「すぐに試せて、効果がなければすぐに辞められる」というメリットもあるという。一定の効果が見込めるようであれば、そこから専用のツールを開発してもいいというのが小芝さんの考え方だ。
「世の中に完全な職場などありません。それならば自分の技術を用いて、少しでも完全な形に近づけていく。そうした取り組みをきちんと評価してくれる当社の社風は、とても居心地がいいですね。今後も、エンジニアが開発に専念できる環境構築に、自らの技術を注ぎ込んでいきたいと考えています」
熱心なユーザーに支えられるピクシブのサービス。それを生み出しているのは小芝さんら熱心なエンジニアたちである。同社の社風が、次にどのようなエンジニアを育んでいくのか、今後が楽しみでならない。

人事に聞く、小芝さんの評価ポイント
小芝さんはRuby界隈(かいわい)で有名なエンジニアで、ピクシブの社員とカンファレンスで知り合ったころから、その技量に高くほれ込んでいました。
エンジニアとしてのスキルだけでなく、お人柄も大変朗らかで、明るい方。ピクシブの社風にもすぐに合うのではないかと思っていました。
入社して1カ月位たったころには、もう数年もピクシブで働いているかのようになじんでいただいていたのを覚えています。
※企画・制作:@IT自分戦略研究所編集部
※@IT Specialの記事(2014年9月)に再編集を加えて掲載しています。
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