中小企業に合わないタイプの場合、転職するしかない?
【神吉直人氏インタビュー 第2回】
著書「小さな会社でぼくは育つ」を執筆した神吉直人氏インタビュー。前回は、「中小企業で働くことで、なぜ幸せになれるのか」を説明してもらいました。
しかし、「中小企業に合うタイプ」の人もいれば、「合わないタイプ」の人もいます。そこで、中小企業に就職したものの、あまりうまくいかずに悩んでいる人のための、マインドチェンジの方法について伺いました。
トップダウンが不満なのであれば、「権限を獲得していく」マインドが必要
――前回、中小企業で働くメリットとして「責任ある仕事を任される」ことを紹介していただきましたが、トップダウンですべてが決まる会社もあると思います。それを不満に感じる場合、どうしたらいいのでしょうか?
神吉直人(以下、神吉):重要な決定に関していえば、下の人は概して権限を持たないものです。権限がないことを不満に思うなら、自分がトップを目指していくしかない。
誰かに雇ってもらっているままで、トップダウンですべてが決まることが不満なのであれば、「権限を獲得していく」というマインドセットを持つことが必要になります。社長や上長など権限を持つ人から、権限のある仕事を振られるようにするには、信頼を得ていくことが大事ですね。
――社長や上長と交渉できるものなのでしょうか?
神吉:交渉というと大げさな気がしますが、比較的早いうちから、社長などと直接話せる環境があるのも、中小企業の特徴の一つです。社長から直接経営理念を聞いたり、取り組んでいる仕事の意義を学べたりするのは、ビジネスパーソンとして成長するチャンスと言えるでしょう。
――それはモチベーションが上がりますね!
神吉:自分の取り組みに意味を見いだせることは、モチベーションにつながりますね。「交渉」の話に戻しますが、話す機会があるからといって、社長のものの決め方に気軽に口出しするような姿勢ではいけません。
また、仮に仕事の進め方が旧態依然としたもので、それが気に入らないとしても、率直に「無駄だからやめましょう」と言ってしまえば、気を悪くする人もいるでしょう。
――コミュニケーション力が必要だということですね。
神吉:シンプルに言えばそういうことです。ただ、何らかの仕事に違和感を覚える時は、仕事の意味を考える機会になります。疑問を感じ、問いを立てることができることは、主体的思考の第一歩です。
「A」という作業で「B」という必要な結果を出しているとしましょう。この時大切なのは、結果「B」を残すことです。それができるのであれば、必ずしも作業「A」を経なくても良い。例えば、必要な意思伝達ができるなら、直接会わずに電話でいいし、もしかするとメールでも十分かもしれない。同様に料理でも、手作りでも機械を使っても同じ味になるのなら、効率を求めて機械でやればいい。でも、機械では出せない味があるなら、手作業を選ばざるを得ません。
新しい進め方を導入することで、結果やコストパフォーマンスを改善できるのであれば、やり方を変えることに意味があります。今までのやり方にとらわれるでもなく、古いからといって否定するでもなく、建設的に意見を述べられると良いですね。
――もし、それでも「無理」とか「できない」と言われたら、どうすればいいでしょうか?
神吉:中小企業に限った話ではなく、予算がないとか、ルールがあるとか、会社の周りにはさまざまな制限や無理なことが存在します。でも、それらの無理は、本当にすべて無理なことなのか、吟味して仕分けしてみるのも大事だと思います。仕事を教えてもらうという形で、制約条件を聞き出していきましょう。
例えば、法律で定められていることなら、政治家に働きかけるなど、多くの過程を経ないと何ともなりません。しかし、社内の仕組みを少し変えるだけで対応できるなら、解決の余地がある無理と言えるかもしれません。
今、目の前にある「できないこと」の原因は、制度的な要因なのか、心理的な要因なのか、いくつかのハードルを越えれば解決できるのか、まったくいかんともし難いのか。そういう仕分けをしてみると可能性が見えてくることがあります。
早々に「無理」と言うだけでは、可能性の芽すら見えません。会社の一員として「自分で自分の可能性をつぶすようなブレーキ」を掛けないよう、議論を導いていけると良いですね。
多忙が嫌なら、仕事が楽になるように勉強して改善することも大切
――中小企業では、「人手が少ない」ことがチャンスを生む反面、多忙な場合もありますが?
神吉:人手が足りなければ、忙しくなるのは避けがたいものです。ただ、忙しさの中には、「仕事を上手にできていない」ことによるものが含まれる可能性には目を向けていきたい。あと、忙しさに押されて、本当にささいな解決可能なものを後回しにしていることが、大きなブレイクスルーを妨げているようなこともあると思います。自戒を込めて、という話ですが。
――例えば、どのようなことを改善すると良いのでしょうか?
神吉:職場の人や取引先の名前、または取り扱っている商品名を覚えるといったことでしょうか。ポイントは、「自分次第で何とかなること」を頑張る、ということです。人や環境に左右されずに、自分一人でできることは、早めにクリアすべきだと思います。
そして、例えば自社の商品を作るのに、どんな材料が使われていて、それがどんな会社から入ってきているのかなど、関連するいろいろなことに興味を持つこと。
そうして学習していけば、「この仕事はどうしてこうなっているんですか?」というふうに、上司と仕事に関する会話をすることができるようになるでしょう。その先には、忙しさを緩和することができる、糸口が存在すると思います。
――やり方次第で楽になれるかもしれないわけですね。
神吉:はい。あと、やはり人には得手、不得手があります。例えば、「言われた仕事を、言われたとおりに丁寧に片付けるのが好き」という人は、自分で一から作っていくような仕事は楽ではないかもしれない。逆もまたしかりです。
会社規模に関係なく「転職すべき時」はある
――いくら改善しても多忙な場合はどうしたらいいのでしょう?
神吉:難しいですね……。個人の努力を超えて、なお仕事があるという状況は、個人ではどうしようもないように思いますが。特定の個人が心や身体を病むことがないように仕事を配分するなど、マネジメントの立場にある人の努力が必要ではないでしょうか。
そのうえで、あえて、忙しさを前向きに捉えるのであれば……、例えば中小のベンチャー企業などが大きく成長している時期には、かなり多くの仕事があると思います。そういう時期は、一時的に大変でも「会社と自分」の将来につながる可能性があるので、頑張りどころかもしれません。
ですが、個人が処理する仕事の量が会社の収益に結び付いていないようなケースはどうでしょう。現状としては、例えば、将来大きな仕事を取るための種まきとして、安い仕事を受注することも多いのだと思います。営業が安請け合いしてしまって、制作部門が困ることもあるでしょうし。そういう理由での忙しさに直面した若い人は、どうすればよいのでしょうね……。
会社がそういう儲からない仕事を受注する配分を間違えないよう、管理者には努めてもらいたい。
――では、そういう間違えた判断をしている会社に入ってしまった場合、どう行動したらいいのでしょう?
神吉:まずは心身を損なうような働き方をしないこと。月並みですが、とにかく、心身の健康を第一に考えてほしいです。そのうえで、また前向きに考えるなら、間違った判断をしている会社でも学べることはあるはずです。仏教では、「求める心があれば、あらゆるものが教えを説く」と言います。どうすれば会社が傾いていくのか、失敗に関する生きたケースを間近で見て、学んでいる、と考えられなくもない。あえて極端に考えれば、ですが。
最終的に、学ぶこともなく、仕事に見合う対価も得られないと感じるのであれば、転職が選択肢の上位に上がってくるでしょうね。
――転職したいのに「できない状態」なんてケースもありますが、逃げられないものなのでしょうか?
神吉:きちんと調べたわけではないのですが、退職者にとって不利な方向に追い込む苛烈な企業もあるようですね。
学術的ではない話を続けますが、学生には「逃げてばかりいると、本当に逃げるべき時が分からなくなる」という話をして、注意を促しています。必要な努力を惜しんで、都合の悪いことから逃げてきたようなタイプの人は、本当の悪から離れるタイミングを見誤る傾向があるように思うのです。
しんどい内容を含むけれども、自分のためを思って発されたメッセージと、ただ搾取することを意図したメッセージは、一見とても似ていることがあります。就職する前から、「厳しいけど自分のために言ってくれている人」なのかどうかの見極めができるように訓練しておくことが大切です。
そして、もし心身の健やかさを損ねかねない状況に陥ってしまったら、「恥ずかしい」とか「逃げているみたいだ」などとためらわずに、転職を検討するべきだと思います。
神吉 直人(かんき なおと) profile
「小さな会社でぼくは育つ」(ミシマ社×インプレス「しごとのわ」レーベル)著者
1978年姫路市生まれ。京都大学経済学研究科修了。博士(経済学)。2014年より、追手門学院大学経営学部准教授。趣味は合気道。
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