
第一線で活躍するヒーローたちの「仕事」「挑戦」への思いをつづる
Vol.163女優 りょう
コンプレックスって武器になる
Heroes File Vol.163
掲載日:2017/3/23

モデルデビュー当初から、クールビューティーと称されるほど強烈な個性を放っていたりょうさん。女性にとってはあこがれの存在だが、りょうさん自身はモデルの時は身長の低さ、女優になってからは容姿に強いコンプレックスがあったという。それらをどう克服し、今に至っているのだろうか。そして、女優という職業を通して思う、仕事への取り組み方についても語っていただいた。
Profile
1973年生まれ。10代からモデルとして活動し、96年女優デビュー。以後、多くの映画、ドラマ、舞台、CMに出演。2017年3月30日(木)から、客席が360度回転するIHIステージアラウンド東京(豊洲)のこけら落とし公演、劇団☆新感線「『髑髏城の七人』Season 花」に出演予定。
「ものすごい挑戦です。私にとっては」
涼しげなまなざしからクールなイメージのあるりょうさんが頬を紅潮させ、やや興奮気味にそう語るのは、2017年3月30日(木)から東京・豊洲で始まる劇団☆新感線の舞台「『髑髏城(どくろじょう)の七人』Season 花」のこと。客席が360度回転する新劇場のこけら落としということもあり、ひときわ注目度の高い公演だ。
「大好きな新感線の舞台に立てるのがすごくうれしい。ただ、時代劇も殺陣(たて)も初めてですし、公演は2カ月半のロングラン。これは体力勝負だなと思い、オファーをいただいた直後から本格的に体幹トレーニングを始めました。それに何か役に立つかなと思って格闘技も(笑)」
スカウトされ、モデルとしてデビューしたのが15歳。ちょうどファッションの仕事に興味を持ち始めたころで、将来のためにと思って飛び込んだ。ところが、他のモデルと比べて身長が165センチと低かったこともあり、当初はオーディションを受けては落ちの連続。さすがにめげてしまうことも多かったという。
「でも考えてみれば、モデルは自分ではなく洋服を美しく見せるのが仕事。だったら、背の低い私がどうすれば洋服の美しさを表現できるのかを追求してみようと気持ちを切り替え、生地や着こなし方などを独学し始めたんです。そうしたら、次第にモデルの仕事が楽しめるようになっていきました」

そして、女優への第一歩を踏み出したのが1996年、23歳の時。初めて出演したのは大ヒットドラマ「ロングバケーション」だった。
「事務所が主催する芝居のレッスンに参加したかったのですが、『来なくていい。変に芝居を覚えるより、君は個性を伸ばしたほうがいいから』と。結局、基礎を学ばないままだったこともあり、現場では求められるお芝居が全然できなくて、毎日家へ帰ると泣いていました」
その時の悔しさが今、女優を続けていることにつながっている。「一度始めたことだし、納得できるまで辞められないなと思いました」
しかし、女優になると今度は容姿がコンプレックスとなる。ヒールな役が多いせいか、街であからさまに嫌な顔をされることもしばしばだ。そんななかで転機が訪れたのは99年。映画の塚本晋也監督からオファーがあり、その理由はハッキリと「顔のインパクトで決めた」と。
「正統派の美人でもなく、きれいなわけでもない。でも監督のお陰で、この顔を武器にしていいんだ、これで芝居もできたら最強だなと思えた」。コンプレックスは発想の転換で強みになる。そう気づいた瞬間だった。
自主トレ的な努力を重ね、好機をつかむ

独特の存在感を放つ女優りょうさん。映画、ドラマ、舞台と幅広く活躍しているが、ここ数年、力を入れているのは舞台だ。1年にほぼ1作品のペースで出演している。
「舞台のライブ感が好き。お客さんに自分の実力が透けて伝わるので毎回怖いのですが、でも緊張感がじかに伝わったり、笑ったり喜んでもらえたりするとすごく気持ちが良くて、やめられないなって思います」
それに準備期間が長いのも舞台の魅力だという。早めにオファーが入るので、その作品に向けて体力作りや役作りのための勉強に時間をかけられるからだ。しかし、俳優という職業はいつどんな仕事が舞い込むか分からない。いざオファーを受けた時、ポンとそれに乗れるように準備だけはしておきたい。だから、普段から思いついたことは何でも始めるようにしていると語る。
「勝手な自主トレです。例えば、尊敬する演出家や監督からいきなりオファーが入ったとします。その時、アクションもありますと言われ、まったくできなければ泣く泣く断ることになってしまう。でも、自信はなくてもアクションができるだけの体力と運動能力を備えておけば、挑戦することができます」
日々の小さな努力こそが、実は大きなチャンスをつかむ最善策。やりたい仕事が来ない時も、やりたいことに近づけそうなことをしてみる。「この仕事が好きなので、勝手に何かしら努力したくなるんです」
現在、取り組んでいるのは劇団☆新感線の舞台「『髑髏城の七人』Season 花」だ。その演出家いのうえひでのりさんは、一緒に仕事をさせてもらいたいと願っていた一人。「いのうえさんは本当に細かく、ささいな動きまで演出してくださる。でも、その中でどれだけ自分の表現ができるか、それを試して楽しんでいます」
気づいたら女優を始めて20年。その間に結婚し、2人の男の子の母にもなった。
「子どもができてから変わりましたね。特に舞台の稽古や本番が始まると夫や両親に子どもを任せ、集中させてもらっています。それゆえ独身の時よりも本気度が増し、今自分が持っている力のすべてを芝居で出し切ろうと思う気持ちがより強くなりました」
ガンジーの格言にある「明日死ぬかのように生きよ。永遠に生きるかのように学べ」。この言葉のような生き方がしたいという。
好きなことにはとことん一途。だから、そのための努力は毎回惜しみなく注ぐ。その繰り返しがあって今のりょうさんがある。
ヒーローへの3つの質問

現在の仕事についていなければ、どんな仕事についていたでしょうか?
手芸や絵に関連した仕事かな。とにかく病的だと言われるぐらい細かな作業をするのが好きなので、そういうことをやって過ごしていたいですね。
人生に影響を与えた本は何ですか?
『大野一雄 稽古の言葉』です。女優の仕事を始めたころに読み、「表現っていろいろあっていいんだ」と思わせてくれた一冊。今もたまに読み返しています。それと、アラーキーこと荒木経惟さんの写真集『花曲』。花をすごく隠微に撮影している写真集です。自分の見た目のコンプレックスも影響しているかもしれませんが、一目で分かる美しさより、よく見ないと見えないところにあるものを、美しいと捉えてもいいんじゃないかという気持ちになれるんです。
あなたの「勝負●●」は何ですか?
舞台中はケガをしたくないので履かないんですが、OFFの時はピンヒールの靴を履き、目元にアイラインを引きます。アイラインは「私、オンナ!」って感じでテンションが上がりますね。
Infomation
IHIステージアラウンド東京のこけら落とし公演
「ONWARD presents 劇団☆新感線『髑髏城の七人』Season花 Produced by TBS」に出演!
2017年3月末、東京・豊洲に誕生するIHIステージアラウンド東京。円形の客席の周りに4つの舞台が配置され、中央の客席が360度回転することで舞台のシーンが転換されていくという新発想の劇場だ。このダイナミックなステージの記念すべきこけら落とし公演が、劇団☆新感線の代表作「髑髏城の七人」。“花・鳥・風・月”の4シーズンに分けてロングラン公演される。りょうさんが出演するのは最初の「Season花」。「新感線の舞台はギラギラして華やかで色気もあって、見終(みお)えた後には爽快感があります。とにかくエンターテインメントに徹していて面白い。ダイナミックな舞台をぜひ見にきてください」とりょうさん。
日程:2017年3月30日(木)~6月12日(月)
作:中島かずき
演出:いのうえひでのり
出演:小栗旬、山本耕史、成河、りょう、青木宗高、清野菜名、近藤芳正、古田新太ほか
公式サイト:http://www.tbs.co.jp/
stagearound/
問い合わせ先:ステージアラウンド専用ダイヤル(☎0570-084-617)