第一線で活躍するヒーローたちの「仕事」「挑戦」への思いをつづる
Vol.207 俳優/彫刻家 片桐仁
流されるがままでもチャンスはつかめる
Heroes File Vol.207
掲載日:2019/11/15
大学時代にコントグループ「ラーメンズ」でデビューし、人気を博した片桐仁さん。
その後、俳優・彫刻家として幅広く活躍。「でも実は、人に言われるがまま、流されるままにここまで来ました」と語る。しかしそれも一つの才能と言えるかも。
色々なシーンで才能を発揮し、独特の感性で私たちを楽しませてくれる片桐さんの、その仕事観を伺った。
Profile
かたぎり・じん/1973年埼玉県生まれ。多摩美術大学在籍中にコントグループ「ラーメンズ」を結成。以後、独特の存在感を持つ俳優として数多くの舞台やドラマ、映画に出演。彫刻家の顔も持つ。2019年11月22日(金)から舞台「鎌塚氏、舞い散る」(東京・本多劇場ほか)に出演予定。
もじゃもじゃヘアと眼鏡がトレードマーク。独特の存在感を放つ俳優の片桐さんが、2019年11月22日(金)から東京・本多劇場で開幕する舞台「鎌塚氏、舞い散る」に出演する。劇作家・倉持裕さんが繰り出す「鎌塚氏」シリーズの第5弾で、片桐さんは3回目の登場。毎回、傍若無人な男爵をコミカルに演じて笑いを誘っている。今やすっかりハマり役だ。
「三宅弘城さん演じる生真面目な執事が引き起こすドタバタ劇です。追い込まれるほどに真価を発揮する執事に対し、僕が演じる男爵は金に物を言わせて色々と企てる割にはなかなか思いどおりにいかないキャラクター。楽しいコメディーなんですが、結構人間の本質が見えてくるような作品だと思います」
幼いころから絵描きになりたかったという片桐さんは、美大に入学するもすぐに挫折。「絵がそんなに上手じゃないことや、そこまで描きたいものがなかったということに気づいたんです」。そんな時、同級生の小林賢太郎さんに誘われてコントグループ「ラーメンズ」を結成し、デビューする。それゆえ就職活動もしないまま、卒業後は警備員のアルバイトをしながらライブ活動を行っていた。
「20代のあのころって、10代の感覚をまだ引きずっていましたね。社会に漠然とした不安を感じていたし、自意識が異常に強かった。世間に評価されないのが悔しいのに、いざ評価されると逆に恐怖を感じたりして。とにかく自分に自信がなくてぐらぐらと揺らいでいました」
30代に入り、結婚して子供が生まれたころから役者の仕事が入るようになる。「まさか自分が役者になるなんて想像もしていませんでした。とはいえ、お笑いの時より褒めてもらえることが多く、他者から認められたいという承認欲求も満たされたんです。それにお笑いとは違う面白さもあって、経験を積めば積むほど演劇が好きになっていきました」
気づけばさまざまな演出家や映画監督から声が掛かるようになり、年5、6本の作品に出演する人気俳優に。「でも、演技を褒められて調子に乗り、『この役を演じきったら僕は堂々と役者だと言えるぞ!』と張り切って臨んだ芝居が全然できていなかったりして、結局ぐらぐら揺れているというか、ずっとうぬぼれとぬか喜びの連続でここまで来たという感じです」
お笑いも演劇も、自分からやりたいと言ったものではなかった。「本当に流されるがままなんです。基本的に受け身で、人から言われたことを一生懸命にやるのが好き。だから芝居は、演出家が色々と要求してくれるので僕としてはとても心地いいものなんです」
すべてにプロ意識を持つのが自分の働き方
今や唯一無二の俳優として数々の舞台やドラマ、映画に出演している片桐さん。「役者の仕事をさせてもらうようになって一番良かったなと思うのは、色んな人に出会えること。人との出会いが次の仕事につながることも多いし、助言をくれたり、自身の考えについて話をしてくれたりする演出家や役者の方も多いんです。それらは演じるうえで大事なものですし、人生にも通じる大切な言葉だったりするので、すべて僕の財産となっています」
例えば今回出演する舞台「鎌塚氏、舞い散る」の作・演出を担う倉持裕さんは、かなり早い段階から片桐さんを役者として作品に呼んでくれた演出家の一人だ。「倉持さんの作品に出演するのは今回で7回目。倉持さんの『いかに役を楽しんでいるかを観客に見てもらうことが大切だ』という言葉は、どんな役を演じるうえでも大きな指針になっています」
また、演出家の鴻上尚史さんには役作りで悩んでいた時、「どうしたって別人にはなれないんだから、役を演じようとするのではなく、自分の人生の別の可能性として考えてアプローチしてみたら」とアドバイスされた。片桐さんは深く納得すると同時に、これは実人生においても当てはまる言葉だなと思ったという。「どんな時でも、違う自分をイメージすることで新たなことに挑戦できるんだと、勝手に拡大解釈して捉えました」
そんな片桐さんは、俳優のほかに彫刻家としても注目されている。雑誌連載をきっかけに20代後半から始めた粘土アートは、約180点にもおよぶ。昆虫や動物の形をした携帯ケースなど、独創的でシュールな作品を集めて国内外で個展も開催。「ありがたいことに粘土アートはあまり褒められもせず、怒られもせず、ライフワークのように続けています」
ただ、お笑い芸人からスタートし、毎月粘土アートを作って、30代からは役者も始めた片桐さんは、色々やって一つに定まらない自分にずっとコンプレックスを感じていたという。「だから芝居の現場では芸人の顔をあえてしたり、お笑いやアートの場では役者っぽく振る舞ってみたりしていました。でも、粘土アートはもう20年もやって評価もしてもらえるようになったし、最近はすべてにプロ意識を持ってやることが自分の働き方なんだなと思うようになってきました。『片桐仁業』こそ僕の職業ですね」
そして片桐さんにはもう一つ、2児の父という顔もある。「子供を通して自分が見えてきて、反省することもあります。子供のお陰でそれまでとは違った目線を得られ、より一層人生が楽しくなった感じがしますね」
ヒーローへの3つの質問
現在の仕事についていなければ、どんな仕事についていたでしょうか?
舞台などの美術の仕事です。特殊メイクなんかもやってみたかったですね。
人生に影響を与えた本は何ですか?
SF小説『リプレイ』(ケン・グリムウッド著)。高校時代の担任が後に推理作家となる北村薫先生だったのですが、その北村先生に教えてもらって読んだ一冊です。40度の発熱があったにもかかわらず、あまりにも面白くて読み続け、翌日の終業式を休んでしまったという思い出があります。当時、映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』が好きだったこともあってタイムスリップものに引かれたんだと思います。
あなたの「勝負●●」は何ですか?
願掛けをしようと思っても、そのことすらすぐに忘れてしまう性分。だから特に何もしていませんね。
Infomation
舞台「鎌塚氏、舞い散る」に出演!
M&Oplaysプロデュース、舞台「鎌塚氏、舞い散る」の上演が始まる。演劇では珍しいシリーズものの人気公演で、2011年に始まった「鎌塚氏」シリーズの第5弾。今回は雪降り積もる山荘を舞台に、女主人に仕える完璧な執事アカシ(三宅弘城さん)とパートナーであるケシキ(ともさかりえさん)の恋の行方が描かれる。片桐仁さんは第1弾と第3弾に続き3回目の出演。そのほか個性豊かなキャストがそろい、テンポ良く楽しく物語は展開していく。「登場人物はみんな一生懸命なんだけど、なぜか事件が起きてドタバタするのが『鎌塚氏』シリーズの魅力。生真面目で融通の利かないアカシがご主人に尽くして奮闘する姿は必見です。これまで舞台を見たことがないという人にこそおすすめしたい作品。分かりやすくて笑って楽しめるので、このシリーズはうちの子供も小さいころからずっと見ていますよ」と片桐さん。
作・演出:倉持裕
出演:三宅弘城、ともさかりえ、片桐仁、小柳友、広岡由里子、玉置孝匡、岡本あずさ、大空ゆうひ
日程:2019年11月22日(金)~12月11日(水)
会場:東京・本多劇場
※この後、大阪、島根、石川、宮城、名古屋公演あり
公式サイト:http://mo-plays.com/kama5/