私は“MoE(Mother of Engineer)”――エンジニアの母と呼ばれた男
転職者プロフィール
シーエー・モバイル
Technology Initiative Center
執行役員
齋藤匠さん
(2012年3月サイバーエージェント入社、2016年9月よりシーエー・モバイルにて業務に従事/38歳)
【転職前】
大手SI(System Integration)企業で、チケットシステム構築、消費者金融の無人契約機システム開発、コールセンター構築などに携わる
↓
【転職後】
サイバーエージェントで、基盤系システム統括後、技術人事としてエンジニア人材育成。2016年9月より、シーエー・モバイルTechnology Initiative Center 執行役員
転職の目的、スタイル、その後の展開は人それぞれだ。今回紹介するエンジニアは、大手SI企業からコンサル企業、そして新進気鋭のネット企業への転職を行い、各所でさまざまな活躍をしてきた。
エンジニアの行く先はマネジメントか、それともスペシャリストか。それとも――。
シーエー・モバイル Technology Initiative Centerの齋藤匠氏は、少し変わった立ち位置こそが自分の居場所だと決めた。自らを“MoE”と述べる齋藤さんのこれまでのあゆみと、これからの目標を聞いた。
SI企業から出ては入って、また出て
現在シーエー・モバイルで「執行役員」の肩書を持つ齋藤さんは、エンジニアとして同社サービスを支えるインフラ周りの技術全般を管掌するだけでなく、技術の分かる人事=「技術人事」の役割も担っている。
齋藤さんのキャリアは、大手SI企業でスタートした。
「エンターテインメントのチケットシステムの構築や、消費者金融の無人契約機システム、コールセンター構築などに携わっていました。『グレーゾーン金利』もなく、おおらかな時代でした」(齋藤さん)
しかし入社3年後、SI企業のエンジニアによくある傾向――「上流へのあこがれ」を感じ、とある大手コンサルティング系企業に転職する。しかし、そこでは半年しか続かず、また元のSI企業に出戻った。齋藤さんは当時を振り返ってこう表現する――「上流をやりたいと調子づいてみたものの、自分の未熟さや経験不足もあり、コンサルという仕事のやり方が合わなかった」と。
復帰後は、新規事業に携わったり、火消し職人としてトラブルが発生した際に問題解決を担うなど、SI企業のエンジニアとしては、一風変わったポジションで活躍した。
齋藤さんは「SIの仕事」をとても楽しんでいたという。チームで何かを成し遂げることが好きで、どのプロジェクトでも「気が付くと仕切って」いて、すぐに「お客さまと仲良くなっちゃう」タイプだった。火消しも嫌いじゃない、というよりも好きな仕事だった。
半年間の「上流体験」をへた後、以前のSI企業に戻り、通算8年間働いた。同社を辞めたきっかけは「SI」の仕組みにあった。「会社の方向性が変わってしまったので、出て行くことにしました」と齋藤さんは当時を振り返る。
そのSI企業は、もともと業務委託の仕事が大半を占めていたが、一部で自社サービス開発の仕事もあった。しかし「経営の方向性が業務委託側に振りきってしまった」のが転職の理由の1つ。同時に、「ECサイトのフルリニューアルに携わって『to C』(to customer:個人対象のビジネス)の面白さを知り、当事者として関わりたいと思うようになった」と、齋藤さん自身にも変化があった。
火中の栗はウマいんですよ!
齋藤さんは「転職に成功した知人に転職エージェントを紹介してもらう」という方法で、2012年3月にサイバーエージェントへ転職した。内定時に示された職種は「インフラエンジニア」。当時、インフラエンジニアの経験はなかったが、「面白そうだから、やってみるか」と思ったそうだ。
そのころサイバーエージェントでは、アメーバピグ(※)の「ピグライフ」を皮切りに、さまざまなピグゲームを作っていた。しかし、ピグライフや「ピグアイランド」など、それぞれのアプリ開発プロデューサーたちの組織と、それを横串で管理するインフラ系の組み合わせがうまく回っておらず、コミュニケーションロスやミスが多発していたという。齋藤さんは持ち前のコミュニケーション力でそれを「交通整理」していった。
とにかく火消しの日々。しかし、そこに悲壮感はない。「火中の栗はウマいんですよ!」と齋藤さんは笑う。そうした日々を過ごしながら、齋藤さんはエンジニアとしての「その先の姿」を見いだしていく。
※日本最大級のコミュニティーサービス。自分そっくりのキャラクターを作り、着せ替えをしたり、さまざまな仮想空間に出かけて他者とコミュニケーションしたりできる。当時の会員数は、1500万人超
「マザーオブエンジニア“MoE”」という生き方
2014年8月、サイバーエージェントはAmebaをネイティブシフトするという発表を行った。Webブラウザ上で動いていたアプリをフルネイティブにするという大きな改革で、齋藤さんはサーバ、フロントエンジニアなどを、ネイティブエンジニアに変化させていく再育成に携わった。
「3カ月で教育して、ネイティブエンジニアとして現場に戻す」というこのプロジェクトが、その後の展開のきっかけになったと齋藤さんは話す。
「ピグ事業をやっていて思ったのは、この会社は『採用は抜群にうまいが、育成にもっと伸びしろがある』だということ。だからその後、『技術人事』という役割を作って、これまではあまりなかった仕事をしようと考えました」(齋藤さん)
ビジネス系出身の人事は技術系の人が困っていることの難易度が分からないことが多い。しかし技術系出身の人事ならば、採用だけでなく、エンジニアのキャリアパスをどう進めていくべきかも分かる。齋藤さんに育てられたエンジニアは、サイバーエージェントの主力事業で活躍しているという。
「マザーオブエンジニア=エンジニアの母、なんて言われるようになりました」(齋藤さん)
“MoE”(Mother of Engineer)が肩書に付くほど、齋藤さんの働き方は「お母ちゃん」的だ。公私にわたって世話を焼き、困ったときにはそっとアシストし、エンジニアを徐々に成長させていく。「裏方だって気持ちいい。自分は目立たなくていい。その代わり、前線で働くエンジニアが伸びて、事業を成功させていくならば面白いじゃないですか」と齋藤さんは笑う。
こういう生き方だってある
学生時代の齋藤さんは、音楽部でベースを弾いていた。「ソロで前にいってガンガン弾くよりも、バックで皆を支えるタイプ」で、いろいろなバンドにヘルプに入っていたそうだ。さまざまなプロジェクトを裏で支えるという立ち位置は、当時から確立されていたようだ。
齋藤さんはある日、部下から「齋藤さんの存在はエンジニアの新しい選択肢」だと言われ、「エンジニアの行く先がマネジメントでもなく、スペシャリストでもない。『マザー』だっていいじゃないか」と思えるようになったという。自分のような立ち位置のエンジニアは、いなくても回るけど、いればもっとよく回るようになると体感しているからだ。
2016年9月にグループ企業のシーエー・モバイルで業務に従事するようになり、執行役員という肩書が付き、「エンジニアの困った」を、経営層に伝えられるようになった。しかし、自分はCTO(最高技術責任者)ではないという。
「スクリプトを書くことはあるし、技術に専念すればそこそこできるとは思いますが、この会社にはもっとデキる人がいる。なので、私は『VP(Vice President) of Engineering』になり、CTOと一緒に会社を回せればいいと思います。CTOがお父さんで、VPoEがお母ちゃん」(齋藤さん)
「お母ちゃん」に、若手エンジニアへのアドバイスを頂いた。
「最近フルスタックエンジニアがもてはやされているけれど、何でもできる人、何でもやりたい人というのは、『何もできない人』になりがちです。だから1つでも核になるものを持ってほしい。1つ詳しい分野ができると、この技術がどう使われているのかを深掘りできるようになり、そこから世界が広がります。データストアに強いとか、サーバサイド処理に強いとか。そこがふわっとしてしまうと、会社にとって『都合のよい子』になってしまいます。だから、何らかの分野でトガってほしいです」(齋藤さん)
「ルールやレールは作りたくない」という齋藤さんのMacBookには、ユニークなステッカーが大きく貼ってある。「会社のルールではダメだったのですが、こういうのは楽しいし、エンジニアのアイデンティティーになるので、交渉して認めてもらいました。今はプロジェクトが走り出すと、まずステッカーを作るんですよ」と笑う。
「文化祭の前夜って、すごくワクワクするじゃないですか。スローガンを決めて、ステッカーを作ってPCに貼ると、一体感が出てくるんです」(齋藤さん)
工夫が好きで、チームで何かを作り上げるのはもっと好き。エンジニアたちをもり立てて成長させるのが、何よりも好き――お母ちゃんの楽しい戦いは、今日も続いている。
取締役 大八木晋平さんに聞く、齋藤さんの評価ポイント
齋藤さんは、技術者の採用と育成、制度設計など、メディア事業で技術者を多く抱える企業にとって欠かせない機能の責任者の経験と、火中の栗を拾うような緊急事態を数多く処理した経験との両方を兼ね備えたリーダーでした。
過去のシーエー・モバイルの技術組織は、そういった両面のリーダーシップを発揮できる人材がおらず、技術者向けに今後どうしていくべきかの道筋を示しきれていなかったですし、日々多くある障害やリスクに自ら飛び込んで解決できるフットワークが求められていました。お話をする中で、過去の組織で得た経験を生かし、新たな組織での成功を再現できれば齋藤さんにとってもよいキャリアになる、というお話でしたので、ご一緒させていただくこととなりました。
※企画・制作:@IT自分戦略研究所編集部
※@IT Specialの記事(2017年3月)に再編集を加えて掲載しています。
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