
第一線で活躍するヒーローたちの「仕事」「挑戦」への思いをつづる
Vol.118女優 水川あさみ
理屈抜きの本気で臨む
Heroes File Vol.118
掲載日:2014/7/17

クールな美しさとキュートな愛らしさを備えた水川あさみさん。中学生の時に女優デビューし、以来、ドラマ、映画、CMと活躍しているが30歳となった昨年から新たに舞台にも力を入れ始めている。彼女にとって20代はどんな時期だったのか。そして30代となった今どんなことを考えながら日々仕事に向かっているのだろう。
Profile
みずかわ・あさみ 1983年生まれ、大阪府出身。97年に女優デビューし、映画、ドラマ、CMなどで幅広く活躍。2014年秋公開予定の映画出演待機作に「太陽の坐る場所」「福福荘の福ちゃん」がある。また舞台「THE 39 STEPS」にも出演予定で、東京公演は10月23日(木)から天王洲銀河劇場にて。仙台、大阪、名古屋、福岡でも公演あり。
落ちた記憶しかないオーディション
切れ長の目と、涼やかなルックスが印象的。シリアスなものからコメディまでさまざまな作品に出演し、そのつど違った表情で私たちを楽しませてくれる女優・水川あさみさん。
小学生の時、ドラマ「家なき子」を観(み)て同年代の俳優の活躍に刺激された。「私もこういうことがしたい」と母親に相談し、13歳で知り合いの紹介で芸能事務所へ入ったという。
「実家のある大阪から東京まで通い、CMやドラマのオーディションを受けまくっていたのですが、落ちた記憶しかないほど不合格続きでした」
それが15歳の時、映画「劇場版 金田一少年の事件簿 上海魚人伝説」のオーディションに合格し、女優デビューを果たす。そして高校入学と同時に上京、本格的に活動を開始する。
「とはいえ、明確な目標があったわけではなく、ただ楽しいから続けているという感じだったので、常に葛藤はありました。このまま続けていってもいいのかな、でも現場が好きだから続けていきたいな、という二つの気持ちをいつも行ったり来たりしていましたね」
心の奥底で揺らぎながらも出演作が与えられることに感謝し、真摯(しんし)に向き合ってきた。だから仕事は順調で挫折という挫折も経験していない。しかし、それゆえに一体何を自分は目標にしていいのか分からなかった。何となく不安を抱えたまま、20代が過ぎていこうとしていた。
役との距離が縮まり演じる楽しさを実感

そんな水川さんの転機となったのが、NHK大河ドラマ「江 〜姫たちの戦国〜」だ。
「1年間、一人の人物の役を幼少期から実年齢を通り越すまで演じたのは初めてでした。役と向き合う時間が長かったのもあり、役と自分との距離が縮まった気がした。そのことが私には大きな出来事でした」
水川さんは初を演じた。その母親、市が自害するシーンの撮影では、リハーサルから涙が止まらず一日泣き続けたという。
「あふれてくる自分の感情が抑えられなくなってしまって。芝居をしていて、これほど深い悲しみを感じたことはなかった。同時にそういう感覚を味わえたことで、私の中の迷いが一気に吹っ切れ、それまで以上に演じることが楽しいと思うようになれたんです」
また、姉の茶々(淀)を演じた宮沢りえさんとの出会いも大きかったという。
「彼女が一言セリフを言うだけで、私は自然に涙があふれた。理屈抜きの本気がただそこに在るというすごさを目の当たりにし、これが芝居なんだと思いました。その瞬間、居ても立ってもいられなくなったというか、役者という仕事がとても愛(いと)おしく思え、もっと頑張りたくなったんです」
舞台への挑戦で実力をつける
2014年秋、水川さんは「THE 39 STEPS」という舞台に出演する。映画監督ヒッチコックのサスペンスをコメディ化し、役者4人で139役を演じ切るという奇想天外な作品だ。
実は20歳で初舞台を経験している。その時は「若過ぎて舞台の本質も分からず、ただ、毎日同じことの繰り返しは自分には向いていないと思ってしまった」と言う。
「でも、先輩や仲間から『舞台は鍛えられるよ』とアドバイスされ、昨年再び舞台に挑戦。実際、稽古では自分が持つ引き出しの少なさに気づかされるし、本番では自分の中身を真っ裸にされるような体験もするしで、得るものは大きかった。今は舞台にもっと出ていろんな恥をかき、その経験を役者としての糧にしていきたい」
この舞台には、NHK大河ドラマで共演した宮沢りえさんも観(み)に来てくれて、「叱咤(しった)激励していただいた」そうだ。
「もっとむき出しなさい、感情の温度が全然足りていない。あなたはできるんだからちゃんとやりなさい、と。年齢を重ねるにつれ、叱られることが極端に少なくなる。それが私は怖かった。だから、りえさんのダメ出しは本当にありがたかったし、うれしかった」
その言葉の重みをしっかりと受け止め、この秋の舞台では演出家の福田雄一さん、そして共演者としっかり向き合い、恥をかきまくって、うそのない芝居をしたいと考えている。
つらければ愚痴っていい

30代に入り、女優として更に高みを目指す水川さん。
「でも、女優という仕事は特殊だけれど特別ではない。どうしたって周りがちやほやしてくれる職業ですが、それが当たり前になったらいけないと思っています。日常生活を大切にし、本来の自分というものを保つよう心掛けています」
仕事で「それは違う」「私はこうしたい」と思うことがあれば、直接相手に伝える。
「昔は自分の考えが正しいかどうか分からなくて言葉にできなかったのですが、そうすると煮え切らない感じが残り、精神衛生上お互いに良くないし、いい作品作りもできない。もちろん、相手にちゃんと伝わるよう言葉は選びますよ」
それとは別に、どうにもならない腹立たしいことがあれば、マネジャーや家族、友人などに愚痴を聞いてもらう。
気さくで正直。誰に対しても同じ目線で向き合う水川さん。高校の同級生で、ドラマ「失恋ショコラティエ」で共演した松本潤さんが打ち上げで、「現場での振る舞い方、芝居も含めてあなたが一番素晴らしかった」と褒めてくれたそうだ。水川さんの女優としての熱量、姿勢、人としての在り方は、そばにいる人に確かに伝わっている。
ヒーローへの3つの質問

現在の仕事についていなければ、どんな仕事についていたでしょうか?
小さい頃はキャビンアテンダント、洋服屋さん、花屋さん、バレリーナなど、なりたいものがいっぱいありました。好奇心旺盛な子供でした。
人生に影響を与えた本は何ですか?
若杉ばあちゃん(若杉友子さん)が著した本。食べ物によって体も変わるし、病気も治るという本なのですが、これを読んでとにかく食べ物に気を付けるようになりました。
あなたの「勝負●●」は何ですか?
毎日仕事へ出掛ける前に猫をなでる、ですね。
Infomation
舞台「THE 39 STEPS」
アルフレッド・ヒッチコック監督のサスペンス映画「三十九夜」を原作に2005年にイギリスで舞台化。役者4人で139役を演じる奇跡のコメディと称賛され、07年には英国演劇界の最高峰オリヴィエ賞最優秀コメディ賞を受賞している。今回の日本版は奇才、福田雄一さんの上演台本・演出のもと、豪華実力派キャスト4人が約100分間コメディに挑戦! 「しっかりとしたストーリーに福田さんのエッセンスが加わることで、間違いなく面白い舞台になるはずです」(水川さん)
東京公演
日程:2014年10月23日(木)〜11月3日(月・祝)
会場:天王洲 銀河劇場
出演:渡部篤郎、水川あさみ、安田顕、佐藤二朗
http://www.39-steps.jp/
※仙台、大阪、名古屋、福岡でも公演あり